逃げて来た女-1
ある日、倉庫番をしながら空手の型を練習していると、急に女性の声がした。
「助けて下さい。悪い男達に追われています。匿って下さい」
見るとファッション雑誌から抜け出たようなお洒落な格好をした若い女性が立っていた。
すらりと背が高くモデルか女優のような美人だ。
私はすぐに行動した。倉庫の中の重い荷物をずらして、1人隠れるくらいの隙間を作るとその中に入るように言った。
そしてその周りに荷物を積み上げて彼女を完全に隠した。
7・80kgの荷物を選んだので普通の人間には持ち上げられないだろう。
2・3分して3人の男達がやって来た。辺りを盛んに見回している。
服装や顔つきで筋者と分かった。これは厄介なことになった。
男の一人が私に言った。
「おっさん、ここに若い女が来なかったかい?」
いや見かけなかったがと、私はできるだけ冷静に答えた。
「ちょっと倉庫の中を改めさせてもらうぜ」
私の返事を待たずに3人の男は中に入ってあちこち嗅ぎまわった。
だが荷物の中に隠しているので見つかる訳もなかった。
「いねえな。おい他の者に連絡して、この周りの出入り口を固めさせろ」
それから小声で3人は倉庫前の路上で打ち合わせていた。
ところどころ聞こえる会話では市内のホテルやモーテルなどにも手を廻すとか駅やバス停も押さえるとかいう内容が聞こえて来た。
つまりこの女には逃げ場がないということだ。
男の1人は凄みのある声で私に言った。
「おっさん、女を見かけたら俺たちに教えてくれ。礼をするからよ。
その代わり隠したり匿ったりしたらただではすまないから、その積もりでいな」
私は彼らが行った後、しばらくしてから荷物の隙間ごしに彼女と話をした。
私はこの倉庫の区域から外に出すのは手を貸すがその後はタクシーを使うなり警察に通報するなりして助かる方法を自分で考えてほしいと言った。
「警察では民事不介入の態度を取るので保護してくれません。
タクシー会社には手を廻していると思うので、乗った途端彼らに連絡が行きます」
そのとき私は内線電話を受けた。事務所の方に倉庫の荷物を持って来てほしいと言うのだ。
私は運搬車に指定された荷物を積んだ。
倉庫には鍵をかけ事務所に向かった。
例の3人の男がうろうろしていたが、私には無関心な様子だ。
私は事務所の駐車場に止めてあった車に荷物の1つを詰め込んだ。
それから事務所に残りの荷物を届けた。