それから-1
そうやって私は元の平穏な生活に戻った。
それが3年前のことだった。
私は表面的には以前と全く同じ生活をしていたが、心の中に楽しい秘密を抱えたように周りの景色が違って見えた。
私は宗教は信じないが、仮に神がいたのならこっそり私にご褒美をくれるのではないかと変な妄想を持ったりした。
相変わらず筋トレをして空手の型練習を繰り返していた。
そしてあの事故のことを思い出してあの時した仕事と同じ量の仕事をするのに何分かかるか実験したりした。
岩や人間と同じ重さの荷物を素早く移動させてタイムを計ったりした。
すると繰り返すうちにタイムは縮まり、これくらい速くできるのならあのとき運転手を放り投げなくてもすんだなとか考えてニヤニヤ笑ったりした。
事実あのとき運転手は滑落するバスの中から自分が放り出されたということを憶えていたらしい。
だから申し訳なくて顔を出せないのも当たり前だと私は苦笑いした。
私は空手で鍛えた体が殺傷するのに使われずに人命救助に使われたことに誇りをもった。
それで良い。