2日目-1
2日目は生憎の雨で退屈なコースになった。
見学場所は屋内限定となり、したくもない買い物中心になった。
神埼青年は相変わらず添乗員の水木女史に話しかけてなにやら笑っている。
というのもLT社の客8人のうち若い20代は“僕様”だけで、男で次に若いのは私くらいなものだから仕方がないといえば仕方のない話しなのだ。
それでも“僕様”は水木女史からときどき離れて私の方に来たりした。
その間、水木女史が他の客と話すように気を遣っているのだと私は思った。
最初の頃よりも随分進歩したなと私は思った。
土産物の食べ物を見ながら“僕様”は私に聞いた。
「筋肉がつく食べ物って肉が良いのかい?」
いやいや、筋肉ムキムキになるなら卵の白身とか大量に飲むのもあるが、丈夫でしなやかな筋肉は、バランスある食事が一番だ。
特に植物蛋白は見かけは細くても強靭な赤い筋肉を作る。
豆腐や納豆なんかは良い。
そんな話をした。
その話しにすごく興味を持ったようで、赤い筋肉の鍛え方を質問して来た。
「見かけは細いけど強い筋肉ってどういう風に作るんですか?」
私は“僕様”が丁寧語で喋ったので、思わずシャックリが出たほどだ。
ぎりぎり持ち上げるくらいの重い物で数回トレーニングすれば、瞬発力のある白い筋肉がつくが太い筋肉になる。
割と楽に持てる物で何十回何百回トレーニングすれば耐久力のある赤い筋肉がつきそれほど太くならない。
“僕様”はメモ帳を出し私の言葉をメモっていた。悪い気はしなかった。
「ありがとうございます。ところで、おっさんの名刺もらえますか?
わからないことができたら聞きたいので」
丁寧語に混じって『おっさん』呼ばわりされることに違和感を感じながら、殆ど使うことなく持ち歩いていた名刺を彼に渡した。
「僕様はプーなので名刺持ってないけど、メモに書きますか?」
私は結構だと断った。でも聞きたいことができたらいつでも連絡くれと言った。
2日目のホテルも神埼青年と相部屋になった。
彼は私に12式の型を見てほしいと言って、細かい動きの違いを指摘させた。
私はほんの少ししか訂正しなかった。そして私は意識的にあることをした。
彼は体が柔らかくスタイルが良いので、少しでも格好良く見えるように修正して行ったのである。
空手の型が舞踊のように美しく見える作り方を“花式”という。
12式は実質的な殺傷力を持つ型だが、その威力を保ちつつ美しく見えるように“花式”の要素を取り入れたのである。
胴長短足の私がやっても綺麗には見えない型が、彼がやると美しい絵になる。
本当は72式とか108式でそれをやらせたかったが、なにせ時間がない。
その代わり今まで見たことないほどの完成度で12式を伝授した。
12式を繰り返しやっている姿を見ているとまさに演武であり、うっとり見とれるほどのものに仕上がった。
さらに彼は私と筋トレを一緒に始めてなんと腕立て伏せを正しい形で8回も行った。
あまり張り切る過ぎると筋肉を傷めるからと注意したくらいだ。