交流-2
私は冷蔵庫から缶ビールを2つ出した。1つを神埼青年に放った。
「僕様、酒飲まないよ」
返そうとするので、そんなの酒じゃない。うがい薬だ。そう言った。
「うがい薬か……そうか」
そう言うと神埼青年は口を開けてゴクゴク飲んだ。
たった一つ飲んだだけで顔が真っ赤になったのでそれ以上勧めなかった。
飲みなれていない者に無理に勧めて、急性アルコール中毒になったら困るからである。
酒が入るとお互いに口が軽くなった。
「僕様はプーだよ。高校も禄に行かずにヒッキーだったんだ。
そのまま中退扱いでさ。
今回姉ちゃんが外の風に当たって来いって金出してくれたんだ」
君の姉さんならさぞ美人だろう。
君も結構美形だから想像がつく。
「僕様に似てるよ。だけど女だからずっと綺麗だけどね。
映画関係の仕事してるんだ。詳しくは知らないけどさ」
私はなんとなく“僕様”の姉の姿を思い浮かべて見た。
それがかなりの美人のイメージだったので、思わずにやけてしまった。
「おっさん、何想像してんだ。気味悪いよ」
何でもない。と手を横に振ったが、そのとき青年の襟の間から白いサラシのようなものが見えた。
シャツではないので、私は指さして教えた。
“僕様”は慌てて襟を直した。そして言い訳するように呟いた。
「漏斗胸っていうんだ。
軽いもんだけど恥ずかしいからこうやって凹みを隠してんだ」
私は脇の近くにに“ルイレキ”の手術跡があると言った。
もちろんそれが何のフォロウにもなっていないことは分かってる。
私はただのサラリーマンだ。と言ってもやってることは倉庫番だ。
年休を取るように言われて仕方なしに旅行を申し込んだ。
結婚は一回しているが、相手に好きな男ができて逃げられた。
子どももいないので趣味の空手で時間を潰している。
空手の型の72式とかを数回やれば、閑にならずにちょうど良い。
倉庫番をしながらやってるので、型だけは上達して大会では上位入賞している。
倉庫の荷物を使ってウエイトトレーニングもしている。
体だけは鍛えておけば、年取ってからも耄碌しないっていうから。
「おっさんの体見たとき背中とケツの筋肉がすごいと思った。
どうやったらそこの筋肉つくんだ?」
私は“僕様”に背筋と大臀筋の鍛え方を教えた。
すると違う筋肉のことも質問したので、その鍛え方も教えた。
私はビールを5本くらい飲んでいたので、気を良くして空手の簡単な型を教えた。
12式という型で拳と蹴りの基本的な動きが入っている奴だ。
意外と物覚えが良く体も柔らかいので、2・3回繰り返しただけで格好良くできるようになった。
君は筋が良いよ。
その型だけでも毎日練習していればいざというときに役に立つかもしれない。
そう言うと“僕様”は嬉しそうに何度も繰り返していた。