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パック旅行と受賞映画
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パック旅行-1

その女性は私の目の前で服を脱ぎ始めた。

私は言った。私はそんな積りではないと。


その前に私が出会った青年の話をしよう。

私がその青年に出会うことになったのは、私も彼も1人旅だったからだ。

大手旅行会社に申し込むと一人部屋は割高になる。

それで色々調べた結果、相部屋でも良いなら2人で申し込んだときと同じ割安の料金で良いことが分かった。

どうせあちこち見回って寝るときだけ戻るのだから、相部屋でも私は一向に構わない。

チェックインして案内された部屋は513号室だった。

私はカードキーでドアを開けると、キャリーバッグを中に入れた。

靴置きにラフなバックスキンの靴があったので、先客がいたことが分かった。

「どうも、同じ部屋にご一緒します。佐々木と言います。」

私は奥に声をかけながら中に入った。

窓側に椅子に凭れて座っていた若い男がこっちを向いた。

眉間に皺を作って何か考え事をしていたようだが、そのままの顔でコクンと頭を下げた。

股を大きく広げて背中を丸めていた若者はバサバサの髪を両手でかき上げると、そのままゆらりと立ち上がった。

「ども……僕様は神埼って言うんだ。宜しく」

太く響く声だが言葉遣いが可笑しい。僕様なんて言い方は日本語にはない。

それにどう見ても20代前半の相手が40才の私にタメ口は可笑しい。

可笑しいが、それが今どきの若者なんだろう。

そんなことにいちいち目くじらを立てていたらきりがない。

私は安価な2泊3日のパック旅行のパンフレットを手にして相手に見せた。

「これと同じですか?」

神埼青年はそれを見ると口の片端で笑って頷いた。

「じゃあ、11時ロビー集合ですね。そろそろだ。行きますか?」

私は時計を見てそう言った。もう10分前だ。

神埼青年も時計を見て頷いた。

「そうだね。僕様は後から行くから、先にどうぞ」

「そうですか。じゃあ」

私はカメラと財布を持つと先に出た。

ロビーでは旗を持った若い女性の添乗員が5・6人の客と一緒に待っていた。

この集合時間から合流して初めて顔を合わせることになっているのだ。

添乗員は、私の名前を確認して時計を見た。11時になっていた。

「あとお1人神埼芳樹さんという方がお見えになっていません」

「同じ部屋にいたから知ってます。もう来るはずですけど」

私がそう言ってると、当の本人が走って来た。

遅れて来ても謝る訳でもなく名前を告げると後は知らん振りして添乗員から離れた。

「皆さん、私はLT旅行社の水木と言います。

これからバスに乗って頂きますが、Rトラベルのお客さんと一緒のバスになります。

その後、JT社のバスに同乗したりします。

ですからその都度私の指示に従ってください。

そうしないと違うコースを廻ってはぐれてしまうことになりますので」

すると、はっきり聞こえるように舌打ちが聞こえた。例の神埼青年だ。

格安の旅行だから、大きな旅行社に間借りしながら行くのは仕方のないことだ。

それを舌打ちするなんてのは随分態度が悪いなと思った。

顔を見ると首を傾げて横目で水木女史を睨んでいる。

他の客は顔を見合わせていた。

そういう態度は決して良くないと誰もが感じているのだろう。

「すみません。そういうことですので、我慢してください。

その代わり3日目の最後はこの人数で空港までバス1台貸切です」

私は思わず苦笑いした。

何故なら私は飛行機で帰らないのでそのバスには乗らないからだ。

きっと別のツアーで使った回送車を利用するのだろう。


 


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