THANK YOU!!-1
春の風を受けながら、秋乃は心地いいまどろみの中に居た。
とても懐かしく感じられる、さほど昔のことではないが今となってはひどく心地いい世界。
『秋乃!』
『柊!』
いつも自分を優しく手を伸ばしてくれる、大切な二人。
この二人が居てくれたから、今の自分が居るようなもの。
秋乃は、意識を夢の中に落とした・・。
*******
「・・・・の!・・・ぁきの!」
「・・ん・・」
「秋乃!!」
「・・瑞稀・・?」
目の奥まで貫く光を眩しく思いながら秋乃は目を開けた。
その先には、親友である瑞稀。
「・・・ここ・・」
「どうしたの?秋乃が居眠りなんて珍しいね」
「・・瑞稀・・?」
「ほら、帰ろ!拓斗も廊下で待ってるし!」
「鈴乃が・・?」
ホラホラ、と急かす瑞稀の後ろ姿を呆然と見つめた。
ウチは何でこの教室に居るのだろう。いや、何故、小学6年生に戻っているんだろう。
そんな疑問が秋乃の頭を支配していた。
「・・あぁ・・そうか」
これは、夢なんだ。
都合のいい・・浅はかな夢。
「秋乃!早く!」
「・・分かってるよ」
秋乃は肩に馴染んだランドセルを背負って、廊下で待っている瑞稀の元へ駆けた。
瑞稀の横には、彼女を愛してやまない拓斗が居る。
「遅いぞ、柊」
「・・はいはい、スイマセンでした」
「絶対悪いと思ってないだろ」
「そう聞こえたならそうなんじゃない?」
「・・・お前な・・」
いつもの、慣れたやり取り。そこに瑞稀の静止の言葉が間に入る。
こんな懐かしい会話を楽しんでいる内に、秋乃はそこが夢の世界だということを忘れた。
「まったく・・何でいつも秋乃と拓斗って言い合いするの・・」
「な、俺は悪くないだろ。柊が・・」
「鈴乃が突っかかって来るから」
「突っかかってねぇよ!お前だろ!」
「あー・・もう、二人とも、そこまでだって!」
そっぽを向いて放った言葉に、面白い程食いつく拓斗を瑞稀はなだめる。
校門を出るまで、そのやり取りは続いた。
校門を出てからは、三人ともバラバラ。
思わず、小学生だったときにはなんとも思わなかったのに恐怖で足を止めてしまう。
まるで、中学から離れ離れになることを予期させているみたいで。
隣に居た二人が、ゆっくり振り向いた。
「・・・どうしたの?」
「・・怖い」
いつもならこんなこと、言えっこない。だけど、この優しい夢に感化されてしまった。
「二人と離れるなんて・・嫌・・、だって、ウチは・・っ!!」
「・・・秋乃、ダメだよ」
「え・・?」
秋乃の口元に、瑞稀の少し冷たい指先が当たる。
潤んでいた目を、少し上げて目の前に居る瑞稀を見る。
否定の言葉を告げておきながらも、優しく微笑んでいた。
「多分、中学生になったら、勉強とか大変だし先輩と上手くいけるか分かんない。でも、秋乃が拒絶ばかりしても何も良いこと無いんだよ?」
「・・だってあれはっ!!」
「少しずつでも良い、受け入れていかなきゃ。」
「・・・先輩を・・」
朝篠先輩を・・、受け入れる・・・。
「柊はなんだかんだ言っても、間違ったことは言わないんだから嫌われることはないだろ。自信、持てよ。いつも俺に強く言ってくるようにさ」
「・・鈴乃・・」
「秋乃にとって、居てくれて良かったって思える先輩、今度紹介してね!」
「瑞稀、鈴乃、ウチは・・っ!!」
《『秋乃ちゃん!』》