黒の他人<後篇>-6
「す、すいません…… 私また…… 龍二さんにご迷惑をかけて……」
そう言うと加奈はなんだか申し訳なさそうにうつむいた。
ご迷惑ってなんだ?さっぱり意味がわからない。
「謝りすぎだよお嬢様?あんたは別に何も悪い事なんてしてないだろ?」
「でもっ またこうして龍二さんに…… その……」
「あん?私みたいな女を抱いてくれて申し訳無いとでも言いたいのか?」
「は、はいっ 仰る通りで…… いたっ」
俺は思わず加奈の額をペシっと叩いた。
「はぅっ い、痛いです……」
「ったく、どこまで世間知らずなんだあんたはっ 同情でもなければ哀れみでもなんでもねぇ、俺はただ抱きたいから抱いただけだよ!」
加奈は両手で額を抑えながら、ちょっと涙目で俺を見上げた。
「そ、それでもっ…… 抱いてもらえたことに変わりはないですから……」
「だからっ いちいち自分を卑下しすぎだ!」
「だ、だって……」
「うるせぇっ!俺だって充分気持ちよかったんだっ お互い様だろっ?」
ホント、いちいち調子狂うヤツだ。
他人事ながらこんな調子で世の中渡っていけるのか心配になってしまう。
「なぁ?そこまで言うならひとつ俺の言う事を聞いてくれるか?」
「は、はいっ 私に出来る事ならっ」
目を輝かして俺を見る加奈。
どうして俺みたいな男にここまで尽くそうとするのか理解に苦しむ。
「……今日はこのまま泊まっていけ」
「え?」
「なんだ、それは出来ない事なのか?」
「そんなことっ でも…… い、いいんですか?」
いいもなにも、こんな時間に女ひとり帰らすなんて出来るわけない。
送っていくにもさすがに今日はもう疲れた。
何よりこうでも言わなきゃ、コイツはまた黙ってひとり帰りかねない。
俺はそっと加奈の髪を右手で撫で上げた。
サラサラした綺麗な黒髪。
柔らかくて手触りがよくて、触っているだけでなんだか心が落ち着く。
「起きたら…… 一緒に買いに行こうな?」
「え?な、何をですか?」
きょとんとした様子で俺を見つめる加奈。
俺はくすりと笑いながら、ベッドの隅にあった加奈の下着を手に取り目の前にちらつかせた。
「ほら、随分と汚させちまったみたいだから……」
「やだっ!? か、返してくださいっ やっ そんなひろげて見ちゃだめぇっ!!!」
加奈は両手をバタバタさせながら、必死でそれを奪い返そうとする。
わざと取れない高さまで手を高くあげる俺は、さながら好きな子をいじめる小学生男子みたいだ。