男友達と素顔の私-1
朦朧とした意識のなかベッドに横たわる私。
太くて逞しい二本の腕が背中越しに胸元をまさぐる。
持ち上げるようにやさしく包み込む大きな手の平。
ゆっくりと揉みしだくその手つきは、
いつにもまして、なんだかとても気持ちいい。
「むにゃ 気持ちいいか千佳ぁ」
「んっ すごい気持ち……って、誰と間違えてんのよっ!」
振り向きざまにポカリと男の頭を叩く私。
驚いた様子で目を剥く男と視線が重なる。
わずかな沈黙、そして二度目の驚き。
どうやら私たちは、二人して違う相手を想い描いていたみたいだ。
「んだよ、夢かよぉ……」
「ゆ、夢かよじゃないわよっ!断りもなく人の胸揉んでおいてっ」
男の名は大樹。高校時代からの腐れ縁で、気の知れた飲み友達のひとり。
そう言えば今日は、失恋した私の愚痴を聞いてもらうため、
こうして大樹の家で飲み明かしていたんだったっけか。
「ちっ、どうりで千佳にしては随分と小さいなと…… いてっ」
「うっさい!あんたの元カノがでかすぎるのよ!」
そう言って大樹にめがけ枕を投げつける私。
思わぬ気持ちよさに感じてしまっていたのは、もちろん内緒だ。
「もうっ 折角慰めてもらおうと思ってきたのに…… あんたまで振られてるってどういうことよ!」
「知るかよそんなのっ 俺だって好きこのんで振られたわけじゃねぇんだよ!」
ほんの三日前、二年も付き合った彼氏に別れを告げられた私。
けれどそのさらに三日前、偶然にも大樹までもが彼女に振られていたのだ。
冷蔵庫からおもむろに缶ビールを取り出す大樹。
蓋を開け軽くひとくち喉を潤すと、
ゆっくりと私に近づき、黙ってそれを差し出してきた。
「はぁ…… 飲まなきゃやってらんねぇな」
「ホントだよ……」
ゴクゴクと喉を鳴らしながら、受け取ったビールを一気に飲み干す私。
言葉に出来ない互いの思いは、
すでにテーブルに散乱した空き缶の山が充分に物語っている。