勝てない相手-1
「えーっ!! 寺島先輩とヤっちゃったの!?」
思いの外輝美の声が大きかったので、あたしは慌てて人差し指を唇の前で立てた。
キョロキョロ辺りを伺うけれど、すでに5時限目が始まっているから、お馴染みの学食にはそんなに人がいなくて、とりあえずは一安心。
「……しかし、いつの間にそんな展開になってたのよ」
「ごめん……今まで黙ってて」
少し呆れ気味に頬杖をついた輝美は、まるで責め立てるかのような視線であたしを見る。
あたしは気まずい思いで、輝美からもらったプレゼントの小さな包みを眺めていた。
今日はあたしの誕生日。
陽介と別れて、あたしがひとりぼっちで誕生日を過ごすことになっていると思った輝美は、今夜は女だけでパーティーしようと誘ってくれた。
でもこの時には、すでに先約があったのだ。
相手は……陽介じゃなくて優真先輩。
それを話した時の輝美の驚きようは筆舌に尽くし難かった。
彼女には、あたしが陽介に振られたとこまでは報告している。
でも、ゼミを終えて優真先輩があたしの事情を心配してくれて励ましてくれたこと、陽介にもう一度気持ちを伝えに行って玉砕したこと、その後……成り行きで優真先輩の家に行ってそのままエッチしちゃったことは、今の今まで言えずにいた。
優真先輩とセックスしてしまったことに対して後ろめたさがあったから。
それなのに、あたしはあれからタガが外れたみたいに優真先輩と何度も身体を重ねていて。
陽介に振られた悲しみを、優真先輩の身体で満たしているズルい自分が軽蔑されているような気がして、なかなか顔を上げられなかった。
「いや、別にいいのよ。臼井くんと別れたのならあんたが誰とヤろうが文句は言わないけど」
「……うん」
「でも、あんたはこの状態を続けていくの?」
輝美の直球過ぎる問いかけに、あたしはすぐに答えられなくて、グッと唇を噛んだ。
優真先輩と初めてセックスしたあの夜、お互いが達して息を弾ませたまま抱き合っていた時、耳元で「やり直そう」と言われたけれど、返事ができないでいた。
陽介への想いはまだまだ消えそうにない状態で、優真先輩とやり直すことに対してどうしても躊躇してしまうから。
黙り込むあたしの心の中を見透かしたように、優真先輩は「すぐに答えは出さなくていいから」と、優しく微笑んでくれた。
答えは保留にしているクセに、あれから何度も優真先輩とセックスしている自分は、カノジョがいてもくるみさんと関係を続けていた陽介となんら変わらないような気がする。
それを受け入れた上で側にいてくれる優真先輩。ふと、くるみさんも優真先輩のような立場に置かれているのかも、そう思った。