勝てない相手-9
◇
バタンと背後でドアが閉まった。
昼間の熱気を溜め込んだワンルームは、眉をしかめてしまうほど蒸し暑かった。
そんな熱い空気を追い出すように、優真先輩は真っ先にエアコンにスイッチを入れる。
ピッピッとリモコンを操作して、エアコンの設定温度を一番低くしてから、ローテーブルの上に置いた。
そして、玄関で待っていたあたしに向かって手招きしながら、
「上がって」
と、声をかけた。
足首に絡み付いていたストラップを外して、ウエッジソールのサンダルを脱ぎ、一歩前に進む。
なんとなく、足取りが重いあたしの頭の中は、さっきの陽介のことでいっぱいだった。
優真先輩に連れていかれた時に、チラリとよぎった陽介の顔。
悲しみを含んだような、唖然としたような、例えるなら親に置いてけぼりにされた小さな子供のような、ショックを受けた顔だった。
あたしを振ったのは陽介の方なのに、なんでそんな顔するの?
初めて見たあんな弱々しい表情に、あたしはさっきからとてつもない罪悪感に苛まれていた。
部屋に入っても、立ち尽くすあたしの顔は浮かないまま。そんなあたしの手を優真先輩はグイッと引っ張ってベッドに押し倒した。
「恵……」
ゆっくりあたしにキスを落とす優真先輩。
そして、右手は優しくあたしの胸を包み始めた。
控えめな快楽があたしを襲うけど、あたしの身体は横たわったまま凍ったように固まっていた。
そんなあたしにたくさんのキスをしてくる優真先輩は、チュ、と皮膚を吸い付くようにあちこちで音を立てている。
そして鍵編みカーディガンをそっと脱がせ、背中に手をまわしてワンピースのファスナーをジッと下ろした。
また始まる優真先輩とのセックス。
汗ばんだ身体のせいか、ワンピースを脱がせるのに少し手間取ったみたいだけど、なんとかあたしをブラとショーツだけの格好にした彼は、少し荒々しくあたしの唇を奪いながら、覆い被さってきた。