勝てない相手-5
これ以上陽介に嫌われたくない本能からか、咄嗟に弁解の言葉が喉から出掛かる。
「陽介、あたし……」
でも、視線をもう一度陽介に向けたところで、優真先輩の笑顔が浮かぶ。
優真先輩は一度も無理強いなんてしていない。身体を重ねることを選んだのはあたしじゃないか。
陽介とくるみさんが一緒にいて、もう届かない想いに泣いていたあたしに、自分を利用していいとすら言ってくれた優真先輩のことを考え、あたしは口から出掛かった弁解の言葉をなんとか喉の奥に引っ込めた。
代わりに出たのは精一杯の強がり。
「そんなの、陽介に関係ない。あたしが誰とヤろうが勝手でしょ。いちいち首を突っ込んでこないで」
「……ふざけんなよ」
陽介が掴んだ手に力をさらに加えていくから、その痛みに眉をしかめる。
でも、この痛みがかえってあたしの目を覚ましてくれた。
なんなの、コイツ。自分で振っておいて、振った女がいざ他の男とセックスしてるのが面白くないっての?
そう考えると無性に腹が立ってきた。
自分だってくるみさんとセックスしてたくせに。
あたしは小さく息を吸い込んでから、陽介に負けないくらい鋭い視線を向けてやる。
「あんたと同じことしてるだけじゃない。別れて別の人とセックスして……。あ、でもあんたよりはマシよ。あたしは優真先輩とやり直すつもりだもん。煮え切らないでダラダラくるみさんと関係を続けてる陽介とは違うのよ」
そう冷たく言い放ち、陽介の手を振りほどこうとするけれど、やっぱり男の力には敵わない。
「…………」
「とにかく、あんたとは別れたんだからあたしが何しようが文句を言われる筋合いはないの。だからもうあたしに関わんないでよ」
ちょっとモテるからって女がみんな思い通りになるなんて思わないで欲しい。
好きでたまらないけど、あたしはもうあんたなんかに振り回されない。そう腹を決めた、その時だった。