勝てない相手-4
◇
連行されるようにして連れてこられたのは、売店脇の階段室。
学生はみんなエレベーターを使うから、ここに立ち入る人なんてほとんどいない。
だから扉を閉めてしまえば、窓のないここは、薄暗い蛍光灯だけが頼りのなんとも薄気味悪い空間となる。
そんな、人気のない場所にあたしは連れて来られてしまった。
ガシャンと扉が閉まってしまい、構内の賑わいは完全に遮断される。
そして、耳が痛くなるほど静かな空間で、陽介はあたしの両手首を掴みあげると、そのまま壁に抑えつけてきた。
「やっ!」
壁の冷たさが背中から伝わり、思わず身震いしてしまう。
それなのに、未だに好きでたまらない男の顔を目の前にして、体温はグングン上昇していく自分がたまらなく情けなかった。
「ちょっと、何すんのよ!!」
それでもなんとか虚勢を張って、怒鳴りつけてやった。
正直、二人っきりになって心臓はバクバクするほど高鳴っているけれど、彼の顔を見てると甘い展開になるとは到底思えない。
これだけ怖い顔して睨まれると、さすがに陽介の行動に沸々と憤りが湧き出てきた。
何なの、あたしが怒られるような悪いことした!?
あたしを振って、悲しみのどん底に突き落としておきながら、怖い顔してあたしを抑えつけて。
陽介の理不尽さに苛立ちを感じつつ、なんとか目を逸らさずに睨み返してやった。
「……お前、アイツとヨリ戻すのか?」
「は?」
「だから、お前が前に付き合っていたアイツとヨリ戻すのかって訊いてんだよ」
「どこからそんな話聞いたのよ」
「……さっき、輝美さんがお前がアイツとヤったって叫んでただろ」
陽介の声は微かに震えていた。
さっきの話、聞かれてたんだ……!
ギクッと身体が硬直して、サーッと背中から血の気が引いていく。
輝美ですら、軽蔑されるのではとなかなか言えなかったことを陽介に知られ、蔑まれる視線を恐れてあたしは彼から視線を逸らせた。