勝てない相手-3
「だから……大丈夫。あたしは優真先輩とやり直して、幸せになるから」
姿勢を正してそうハッキリ言ったあたしに、輝美はようやく伏せていた瞳をこちらに向けた。
綺麗にカールされた睫毛。丁寧に塗られたマスカラ。ちょっとつり上がったアーモンド型の大きな瞳。
――なら、あたしはあんたを応援するよ。
きっと、次に輝美が言う言葉はこんな類のものだろう。
時には手厳しいことをズバズバ言ってお説教することが多いけど、最終的にはあたしの決めたことを理解してくれるから。
そんな言葉を期待しながら、グロスでつやつやしている輝美の綺麗な唇をぼんやり見つめていた。
だけど、輝美は一向に何も喋らない。
訝しんで彼女の顔に焦点を合わすと、大きな瞳がさらに見開かれていた。
「……輝美、どうしたの?」
輝美は見開いた目と、さらに連動するようにポカンと口を開けている。
よく見ると、輝美の視線の先はあたしじゃなくて、それより後ろを捉えている。
輝美はあたしの背後を見て明らかに驚いた表情を見せていた。
それが気になって、あたしも輝美の視線を追うようにゆっくり後ろを振り返ると。
「…………!」
ハッとあたしの息を呑む音が、閑散としていた学食に響いていた。
「……臼井くん」
凍りついた空間を破ったのは輝美の声だ。
だけど、未だあたしは金縛りにあったみたいに陽介の顔を凝視してしまっていた。
陽介は輝美にお愛想程度に頭を下げてから、あたしに向き直る。
でも、その表情は明らかに目をつり上げてこちらを睨みつけていたから、あたしは背中が粟立ってしまった。
陽介はチラリと輝美の方に視線を向けると、たった一言、
「輝美さん、ごめん。ちょっとコイツ借りるから」
と言って、あたしの腕をガッと掴み上げて強引に立ち上がらせた。
「痛っ! 離してよ!!」
思わずしかめっ面になって陽介を睨むけど、コイツは一向に険しい表情を崩さない。
「いいから、ちょっと来い」
陽介はそれだけ言って、あたしを引きずりながら学食をあとにした。
助けを求めたつもりで見た輝美の顔は、相変わらずポカンと口を開けたままだった。