勝てない相手-2
「今はまだ陽介のこと忘れられないけど……いつかは優真先輩を好きになれるように努力するよ」
「そっか……」
ゆっくり目を伏せて黙り込んだ輝美は、
「なら、あたしは何も言わない。あんたがそう決めて、幸せになってくれるなら」
と、どことなく寂しそうに笑った。
輝美に認めてもらえると、なんだかホッと安心する。
自分の決めたことが間違っていない気がするからかもしれない。
だけど。
ふう、と胸に手をあてて息を吐くあたしを見て、輝美がポツリと呟いた。
「好きって、努力してどうにかなる感情なのかな」
多分、無意識のうちに出てしまった独り言だったんだと思う。
実際、輝美はあたしじゃなくテーブルに置いてある自分のお冷やをぼんやり眺めていたから。
でもあたしに向けられなかったその言葉は、針のようにあたしの胸をチクリと刺した。
好きって気持ちは、努力なんかで育つもんじゃない。そんなのわかってる。
でも、努力してコントロールしないと、あたしの好きはいつまでもアイツの方ばかり向いちゃうんだよ。
優真先輩と何度も身体を重ねても、恋しくなるのは陽介のことばかりで、心の中で何度も陽介の名前を呼んでは上り詰めて。
そうして届かない想いだけが残って――。
ああ、ダメだ。また泣きそう。
あたしは陽介への想いを振りきるように、プルプル首を小さく振ってから、ワントーン明るい声を出してニッと笑みを作った。
「大丈夫だって! 優真先輩はあたしのことちゃんと好きでいてくれてるみたいだし、今夜だって、映画観て御飯食べてくるし、身体だけのやましい付き合いにはならないと思うもん」
陽介と過ごすつもりだった誕生日が、元カレの優真先輩と過ごすことになるとは夢にも思わなかったけど、「恵の誕生日お祝いさせて」と言ってくれた彼の気持ちは本当に嬉しかった。
まあ、付き合ってるわけじゃないからプレゼントを買うと言い張る優真先輩の申し出は、気持ちだけ受け取ることにしたけれど。
その代わり、今夜は普段じゃとても行けそうにない、あたしには背伸びしたような敷居の高いお店でお食事することになっている。
あたしの誕生日を覚えていてくれ、彼の身体で慰めてもらって、それでもあたしを責めずに待っていてくれる優真先輩。彼の気持ちは本物だと思う。