勝てない相手-12
あたしの出した答えに優真先輩はニッコリ頷くと、ゆっくり立ち上がって冷蔵庫の前に歩いて行った。
そこから出してきたのは、一本の缶ビール。
プシュッと音を立ててそれを開けた彼は、グイッと喉に流し込み始めた。
上下する喉と、ビールが嚥下されていく音。
突然のその行動に呆気に取られていると、優真先輩はあたしに背を向けて、フローリングに座り込んだ。
「……オレには、恵を裏切った前科があるから、恵のこと責める資格なんてないのはわかってる」
「…………?」
脈絡のない話に、思わず目を丸くして彼を見つめる。
「でも、オレだってやっぱり感情ってのはあるわけだからさ。好きな女の誕生日に振られちゃうのは正直キツイしムカつくんだ。一緒に過ごせるもんだと思ってたから余計にね」
そう言って、あぐらをかいた身体の横に缶ビールをコン、と置いた彼は、少し低い声でこう言った。
「……だから、ちょっとだけ仕返しさせてもらう」
「え?」
真顔になってこちらを見る優真先輩に、顔が強張ってしまう。
ゴクリと喉が上下する音がやけに響く中、優真先輩はゆっくり口を開いた。
「……オレ、もう恵と話したりするのやめるから。だからこれから先、恵が彼氏のことで泣くようなことがあっても、もう手を差し伸べたりしない」
そう言ってイタズラっぽく笑いながら、こちらを振り返った彼。
その瞳は少し潤んでいた。
「こんな仕返しなんて仕返しのうちに入らないって思うよな。でも、こうでもしないとオレ、恵のこと諦められそうにないから。だから、オレと恵は他人よりも遠い存在になるから」
そう言って小さく笑いながら前髪の辺りをポリポリ掻く優真先輩の姿が次第にボヤけてくる。
優真先輩の想いの強さを今さらながらに知ったあたしは、ブラとショーツというあられもない格好にも関わらず、気付けばタオルケットも放り出して彼の胸に飛び込んで、しゃくりあげて泣いていた。
「……先輩……ごめんなさい……」
それしか言えない。
やっぱり陽介を忘れられなくて、優真先輩を選べなかったあたしには、謝ることしか出来なかった。