勝てない相手-11
下唇を噛み締めて俯いたあたしに、優真先輩はクスリと笑う。
「まあ、ヤってる最中に他の男の名前呼ばれてショックはショックだったんだけど、どうせ恵の気持ちは届かないってたかをくくってたんだよね。今日のあの光景見るまでは」
「あの光景?」
「うん。彼氏が恵をもう好きじゃないなら、オレに勝算はあるって思ってたんだけど、彼氏の顔見たらさ、完全にオレの出る幕じゃないって思い知らされた」
「え?」
優真先輩の言ってることの意味がわからず、ポカンと半開きの口のまま固まっていたら、彼は小さく頷いてからあたしの頭にポンと手を置いた。
「恵は自分のことでいっぱいいっぱいだったから気付かなかったのかな。オレが恵の手を引いた時のあのショックを受けたような茫然とした顔。あれ見たらアイツの気持ちがわかっちゃったんだよね」
「陽介の気持ち……」
「彼氏、まだ恵のことが好きだと思う」
咄嗟によぎったさっきの陽介の顔。伏せた瞳がやけに寂しそうに見えて、あたしの胸を締め付けたあの表情を思い出すと、心がざわつき始める。
でも完全に振られて、陽介のアパートにいた部屋着姿のくるみさんを思い出せば、膝の上に置かれた服を握りしめて首を横に振るしかできない。
「それは違います。陽介にはキッパリ振られているし、彼のアパートにはすでに別の女がいたし」
そう、アイツにはくるみさんがいるからあたしのことなんて必要ないはず。
……だったら、なんであたしが優真先輩とセックスしてたことを知ってあんなに怖い顔して詰め寄ってきたんだろうか。
なんで、あんなに激しく求めてくるようなキスをしてきたのだろうか?
静まり返ってしまった部屋に、突如冷蔵庫が低いモーター音を鳴らし始めた。
まるで、タイムアップを知らせるブザー音のように。
「……恵、人の気持ちって口に出した言葉が全てじゃないよ」
「…………」
確かに、陽介のとった行動はわからないことだらけ。
陽介の気持ちもわからないことだらけ。
あなたは、今誰を想っているの? 何であんなに求めるような激しいキスをしてきたの?
「彼氏には訊かなきゃいけないことがたくさんあるんじゃない?」
あたしの心の中を見透かしたように、優真先輩はあたしの頭を撫でながら言った。
暫しの沈黙。その間頭の中ではいろんな陽介の言動がグルグル渦巻いていた。
そして思い出す、さっきのキスの感触。その意味は?
やがてあたしは、一つの結論を出すと優真先輩をまっすぐ見つめて口を開いた。
「先輩、あたし……陽介にもう一度会って、話をしてきます」