勝てない相手-10
甘い快楽に時折反射的に身体が跳ねるけど、さっきの陽介の表情が頭にこびりついて離れない。
――いや、違う。
陽介のことが頭から離れないのは、ずっと前からじゃないか。
振られても、くるみさんと一緒にいても、アイツに手を掴まれただけであんなにドキドキしてしまうほど好きでたまらなくて。
それほど陽介が好きなくせに、振られて寂しいからって優真先輩と何度も身体を重ねていて。
あたし、何やってるの……?
目の奥が痛んだと思ったら涙が一滴、ポロリとこめかみに流れ落ちていった。
身体のあちこちを愛撫していた優真先輩は、一向に反応しないあたしの顔を覗き込み、そしてあたしが静かに涙していることに気付いた。
「恵……」
「……めんなさい……」
次第に涙の量は増していき、声が震える中、なんとかそれを振り絞って口を開いた。
「先輩……ごめんなさい……。あたし、やっぱり……」
右手で口を押さえ、なんとか込み上げてくる嗚咽をこらえようとしても、もう止まらない。
あたしはやっぱり、陽介が好き――。
あたしの顔の横に手をついて覆い被さっていた優真先輩は、スッと身体を起こしたかと思うと、背中を向けてベッドから足を下ろした。
怒った……よね?
足元に固まっていたタオルケットで身体を隠しながら、あたしも身体を起こし、潤んだ瞳を彼の背中に向ける。
すると彼は、背中を丸めたままこちらを見ることなく呟いた。
「恵の気持ちは最初からわかってたんだ」
「え……?」
やがて優真先輩は、フローリングに投げ捨てられたあたしの服を拾い上げると、ポン、とあたしの膝に置いた。
その表情は、とても優しいいつもの笑顔。
でも、その笑顔を見た瞬間、また涙が溢れてきた。
「なかなか彼氏のこと忘れられないくらい好きだってのは覚悟の上で、オレは待つつもりだった。彼氏が恵に対してもう気持ちが無いなら、待っていればきっと恵の気持ちも手に入るってね」
「先輩……」
「だから、いくら抱いてる最中に恵が彼氏の名前を何度呼んでいても、大丈夫って言い聞かせてきた」
優真先輩の言葉に、顔がボウッと熱くなる。
あたし、陽介の名前を呼んでたの?
確かに優真先輩を陽介と重ねていた所はあった。だけど、それを無意識のうちに口にしていたなんて。
優真先輩の優しさに甘えていたとはいえ、好きだって言ってくれた彼に対して、なんて無神経な真似をしていたんだろう。