黒の他人<前編>-11
「あっ んんっ……」
一瞬、加奈は驚いた様子を見せるも、すぐさま目を閉じ黙ってそれを受け入れた。
辿々しさが見え隠れするも、懸命に舌を動かすその様がなんだかいじらしくてたまらない。
「右手?それとも左手か?」
「えっ?な、何がですか?」
「いつもどっちの手でしてるのかって……聞いてるんだよ?」
ふるふると恥ずかしそうに首を振る加奈。
けれど俺は質問をやめない。
「いいから…… どっちなんだ?」
「…………み、右手……です」
「どうやって?」
「え?ど、どうやってって…… 言えませんそんなことっ」
「口で説明出来ないなら、して見せてくれよ?」
たたみ掛けるように俺は言葉を繋いだ。
どうしていいかわからない様子の加奈は、必死で俺から視線をはずそうとしている。
「加奈?」
「ひゃいっ!」
けれど突然、俺に名前を呼ばれ驚いた加奈は、すっかり視線を外すタイミングを失った。
「心配ねぇよ、俺はこうして顔を見ててやるから……」
「で、でもっ…… 人様の前でそんな……」
「どうした?自分でしてたってのは……やっぱり嘘だったのか?」
「う、嘘なんかじゃ……ありませんっ」
「だったら…… な?」
「…………は、はい」
脈絡も辻褄も合わない歪な誘導。
遊び慣れた女なら、軽くあしらわれて終わりの矛盾交じりな誘い。
けれど、世間知らずのお嬢様にはこの程度で充分だろう。
何より加奈は、俺に嘘をついていないと認めさせたいみたいだから。