12-3
「だけど....女としてはもうダメっすよ...。嫁に行けねぇっす....」
努めて冗談ぽく続けた。
「...じゃあ、俺が嫁さんにもらおうかな」
「...えぇっ!?」
気紛れかもしれない。
励ましで言ってくれただけかもしれない。
それでも、絢は嬉しかった。
体温が上昇するのが分かる。
今日は暖かいが、それだけが原因ではないようだ。
「.....あ、すげー不満そう」
「あ.....ううん、そんな.....」
端正な顔立ちの笑顔が眩しい。
彼の隣に立つのは、自分ではないと思った。
「身に余る光栄っす。それだけで早く退院出来そうだよっ」
複雑な思いだが、あくまでも冗談のやり取りとして返す。
そうでもしないと心のバランスが保てない。
そもそも、誠が何を考えているのか分からない。
何処かで勘ぐってしまう自分が醜く思えた。
「あーあのさ、冗談とか思ってるっしょ」
「...うん」
「じゃ、仕切り直しね」
そう言うと、誠はベッドから離れてドアの外に出た。
再びノックされた。
誠の言葉の真意も行動も理解出来ていない絢は、意地悪かと思いつつもそのまま返事をしないで観察してみることにした。
そーっと、ドアが開く。
隙間からバツの悪そうな顔をした誠が覗き込む。
「......あのー、ノックに返事もらってもいいすか?」
絢は吹き出してしまった。
「....ごめんねー」
「すいませんねぇ。お手数おかけします...」
初めて目にした、意外にもお茶目な一面。
再びドアが閉まる。
ノックの音が響く。
絢が一つ返事をすると。
絢の目に入ったのは、大量の花束を右手に抱えた誠。