そこにある愛-6
思わぬ注目を浴びてしまって気まずくなったあたしは、逃げるように大学を飛び出すと、あてもなくぐるぐる人混みの中を歩いていた。
「あーあー、しあわせのー、とんぼよーどこーへー」
無意識のうちに長渕剛を口ずさんでいた自分に我に返り、慌てて西野カナに曲を変更する。
でも、正直どの曲もサビのワンフレーズしか知らない。
長渕剛ならアルバムの曲まで、歌詞カード見ずして最後まで歌えるのに、最近の女の子が聴くような音楽は、さっぱり頭の中に入って来なかった。
頭の中まで元気の趣味に洗脳されていたのかと思うと腹が立って仕方ない。
さっきの元気のショックを受けたような顔が少し胸を痛めたけれど、これ以上あんなもっさり男と一緒にいたらダメになってしまう。
あたしの隣に立つのは、元気みたいなダサ男じゃなく、レイナちゃんの彼氏みたいなオシャレなイケメンなんだ。
そう思い直すと、タイミングよくお腹が盛大に鳴り出して、あたしはたまたま目に入った吉野家のオレンジ色した看板の方へとフラフラ近づいて行った。
自動ドアがガーッと開いた所でまた我に返る。
何の迷いもなく吉野家に入ろうとしていた自分に呆れる。
条件反射って怖い。
元気と一緒に吉野家によく行っていたから、一人吉牛なんてお手のものだし、オシャレなカフェに一人で入るよりよっぽど気が楽なのだ。
しかし、ここでも元気の思考が乗り移っていたことに気づいて焦る。
違う、あたしはこんなむさい牛丼屋なんかじゃなく、もっとオシャレなお店に入らないと……。
キョロキョロ周りを見回すと、吉野家の向かいにオープンテラスになったコジャレたカフェを発見したので、パンプスを履いた脚を迷わずそちらに向けて歩き出した。