そこにある愛-5
それでも元気はあたしの言葉を本気と捉えてくれない。
「はいはい、またいつもの口癖が始まったか。
でも、お前がいくら頑張ったってああはなれないぞ、身の程を知れ」
そう言って元気は、こちらに向かって歩いて来る、細くてスタイルのいい可愛い女の子の姿をこっそり指差した。
少し胸元の開いた白いカットソーと、フワリと柔らかそうな黒いシフォンスカート、小さい顔によく似合う長い巻き髪は綺麗に染められ、歩く度にフワフワ揺れていた。
10センチはあるんではないかというヒールのパンプスで歩く姿もモデルのように美しかった。
彼女はあたしが愛読してる雑誌の読者モデル・レイナちゃん。
初めて彼女を構内で見た時は、雑誌で見るよりはるかに可愛くて細くて、あまりの美しさに一瞬で虜になってしまったほどだ。
いつ見ても美しいレイナちゃんの周りには、光の粒子のようなものが舞っているような気がして、あたしは思わず眩しそうに目を細めた。
「ああいう美人こそピンクとかフリフリとか着るべきなんだよ」
そして彼女が去った後、聞こえてきた声にふと横を見ればずんぐりむっくりのダサ男。
レイナちゃんを見かければ、いつもかなりレベルの高いイケメンが横に並んでいた。
いい女にはいい男がつく。
これはあたしの持論だし、レイナちゃんはあたしのセオリー通りに素敵な彼氏を雑誌でも紹介していた。
それに対してあたしの横には、こんなもっさりしたイケてない男。
雑誌で見たレイナちゃんの彼氏と元気を見比べれば、苛立ちと惨めさがこみ上げてくる。
……こんなのにつきまとわれてたら、あたしまで女の品格を失ってしまうじゃない。
「な、お前もだからそんな似合わねえ格好しないでジャージとか楽な格好してろよ。
そうだ、腹減ったしカラオケ行く前に吉野家行こうぜ」
元気があたしの肩にポンと手を置いたが、あたしは思いっきりその手をはねのけ彼を睨んだ。
「ホンットウザいんだって!
あたし、あんたと一緒にいると同類みたく思われそうでマジで迷惑してんのよ!
あんたはチビだし、堅太りだし、服もダサいし、変な髪だし、もう見てるだけで嫌なの!
話しかけられると鳥肌立つの!
あたしはあんたなんて大っ嫌いなんだからもう話しかけてこないでよ!」
そこまで言い切ってから、周りをみれば、みんなあたしに注目していた。
そして、当の元気はただ呆然と立ち尽くしていた。