そこにある愛-15
その時、ピンポンピンポンピンポンとけたたましくインターホンを連打する音が聞こえた。
こんな迷惑な鳴らし方する奴は一人しかいない。
普段は迷惑だけど、今はこんなやかましいインターホンがあたしの耳にやけに心地よかった。
あたしは部屋の電気を点けてから、急いで玄関に向かった。
「茜ー、よかったあ、家にいて。
これもらってくれよ」
そこにいたのはやはりいつもと変わらない元気だった。
彼の顔を見て安心したのと同時に、ものすごい臭いが部屋になだれ込んできた。
臭いの元は、元気が持ってきた大量の土付きの長ネギだったのである。
「ちょ、何これ臭い!」
ネギの臭いが辺りに充満し、思わず顔をしかめる。
「だってよお、親がいきなりネギだけ送ってくんだもん。
さすがに一人じゃ食い切れねえし、おすそ分け」
「あたし、ネギ嫌いなのよ!
ちょっと、部屋ん中置かないでー!」
「そんなこと言うなよ、俺のじいちゃんが丹精込めて作ったネギだぞ。
部屋ん中が無理なら、ベランダ置くからちょっとあがるぞ」
元気はそう言って茶色い紙袋いっぱいに詰め込まれたネギをベランダに運び出そうとしていた。
「あ、ちょっと! ガーデニングしてんだからそんなもん置かないで!」
あたしの言葉を無視して、元気はガラッとベランダを開け、香り爽やかなレモングラスの鉢の横に、ドサッとネギを置いた。
いつもならこんな不躾な真似されると、途端に苛立ってくるのに、今はこの図々しさが心地よい。
あんなにひどいことを言ったあたしに、何もなかったように接してくれた元気の大らかさがたまらなく愛おしくて、気付いたら背中を後ろから抱きしめていた。