ホワイトアウト-3
夏目由美子は、自分の過去を語り出した。
それはまだ彼女が高校生の頃のことだった。ある日、通学の電車内で痴漢に遭い、スカートの上からお尻を触られたのに、怖くて声も上げられずにいた。
しかし痴漢の男は彼女の様子に気を良くしたのか、仲間と集団で彼女を取り囲み、卑劣な行為を日に日にエスカレートさせていく。
制服の中に手が入り、ブラジャーを取られたあと、乳房を揉まれた。
別の手はスカートの中へ差し込まれ、下着の中をいたずらしてくる。膣内を掻きまわされたのだった。
彼らから逃れようと電車の時刻をずらしてもだめだった。
いつしか彼女はあきらめの中で、望まない高揚感を味わうこととなる。アクメを迎えたのだった。
そんな自分が情けなく思えて、女に生まれたことを恨めしく感じたらしい。
彼らの行為はそれだけでは済まなかった。下校途中に待ち伏せされていた彼女は、とうとうレイプされそうになる。
幸いにもそれだけは未遂に終わったものの、そのときの心の傷がトラウマとなり、数年経った今も癒えることがない。
そんなふうに男性不信なはなったけれど、今のご主人と出会って心を開くようになり、肉体関係を持たないまま結婚する。
ほんとうは子どもが欲しかった。けれどもそれを叶えるにはセックスをしなければならない。
彼女は黒い過去を払拭して、恐々と夫に体をあずけた。そこに至るまでにどれほどの覚悟が必要だったか、今でも忘れることができないでいる。
押し寄せてくる恐怖に怯えながら、夫の惜しみない愛情をその胎内に宿したとき、太陽の黒点みたいなシミが消えていくような気がしたという。
そこまで喋って、夏目由美子は翳りのある顔を見せた。すすり泣きながら、過去を否定する素振りをしている。
どんなときでも明るかった彼女のことが、今はとても小さく見えて愛おしい。
「それでもやっぱり、二度と旦那には抱かれたくなかった。男の人が怖いの」
「それ以上言わなくていいよ。私にもわかるよ、夏目さんの気持ち」
計り知れない彼女の悲しみに触れて、自分の目頭が熱くなっていくのを感じた。
もう、夏目由美子がノブナガでもいい。私の気持ち一つで彼女が救えるのなら、もっと寄り添ってあげたい。
「忘れたかったから。強姦されそうになったときのことをぜんぶ、消してしまいたかったから、あのサイトで知り合った女の人とセックスしたの」
少し吹っ切れた感じの口調で彼女は言った。
「とっても優しくしてくれた。怖い気持ちもどこかに消えていて、体がふわふわして、彼女に抱かれたまま尽き果てたの」
「その人のことが好きになったの?」
「ううん、違う。そのときの私にはまだ旦那以外の誰かを好きになれるほど気持ちに余裕がなかったし、家庭を壊すつもりもなかった」
彼女のその言葉は、そっくりそのまま今の自分に向けられているように聞こえた。
「そんなときに出会ったのが、三月里緒さん、あなただったの」
いよいよ彼女はブラジャーのホックを解いて、量のある乳房を外にこぼした。そこに紅い乳首が実っている。
さらにショーツを脱いでしまうと、私たち二人は完全に裸で向き合うかたちになった。
「里緒。あなたとセックスしたかった……」
彼女は身動きの取れない私に跨り、発情したように私の名前を何度も囁く。
私は彼女の体臭を嗅ぎながら、迫り来る唇に焦燥を感じていた。
彼女の顔が視界の下へ潜った途端、首すじに噛みつかれるようなキスに見舞われた。
それを受け入れたわけではないけれど、拒絶もしなかった。彼女の唇が触れるたびに、肌が音をたてた。
うなじに、耳たぶに、下顎に、官能を伴った生温かい感触が私を濡らしていく。思わず吐息が漏れる。
そのまま肌を重ねて、隙間を嫌うように私を抱きしめた。彼女の髪が匂いを放ち、私の皮膚をくすぐる。
乳房と乳房、乳首と乳首がまみれて一つになる。
「里緒の体、すごく素敵……」
その唇が私の肌を下って、胸のふくらみを愛撫する。鼻を押しつけ、舐めまわし、空腹を満たすようにむさぼる。
私が反応すると、「ここがいいの?」と彼女は甘えた声で訊いてくる。私は何も言わない。
彼女の視線が私の乳首を捉え、そこに熱い息がかかると、そのまま口にふくむ。
「ああっ、くうん……」
私は仰け反った。久しぶりの感覚だった。女の中枢を突き抜けていくような痺れがくる。
乳首を舌で転がされ、てろてろともてあそばれていると、下半身に潤いがあらわれてくる。
「どこをどうして欲しいのか、ちゃんと言って。私ならもう、ほら」と彼女は自らの陰唇をさらした。赤みの差した膣口がぬらぬらと濡れている。
自分もあんなふうに液を垂らしているに違いない。