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警鐘
【その他 官能小説】

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ブラックアウト-1

「さっきよりも風が出てきましたね」

 救急車を見送ったエントランスで、風に靡(なび)く髪を押さえながら庭朋美が言った。
 私は言葉もなく、千石寛という人物像を思い描き、善人なのか悪人なのかと考えていた。

 寒さが増してきたので、二人で建物の中に入り、自動販売機のそばのベンチに座った。
 庭朋美は小銭を鳴らしながら缶コーヒーを二本買って、「お疲れさま」と一つを私に差し出した。

「すみません」

「それはこっちの台詞です。大切なお客様にいろいろ手伝わせてしまって」

「すみません」

「どうかしました?」

 おなじ言葉をくり返している私を見て、彼女は身を寄せてきた。

「さっきの女の子が言っていたノブナガという人、私の知っている人かもしれません」

 私の告白に困惑する彼女。

「私が今日ここで会う約束をしている人も、ノブナガっていうんです。別人かもしれませんけど」

「それじゃあ、三月さんのお連れの方のほんとうの名前は、何ていうんですか?」

 即答できなくて沈黙をつづけていると、だんだん喉が渇いてきた。私は缶コーヒーに口をつけ、千石寛の名前を出そうと身を乗り出した。
 そんなとき、あの三毛猫がひょこっと姿をあらわした。

「ここの看板猫なの」と庭朋美は目尻を下げた。

「動物って癒されますよね。何ていう名前ですか?」

「マサムネっていうの。なかなかの男前でしょう?」

 猫は呑気でいいな、と私はつくづく思った。

 北欧の佇まいを見せるワイルドガーデンズも正午を迎えようとしていた。それなのに日差しを遮る分厚い雲が低く広がって、外はますます暗くなるばかり。
 斜めに吹雪いたかと思えば、空に向かって舞い上がったりもする。

「そろそろ仕事に戻らないと」

 そう言って庭朋美は身なりを確かめて、清楚な後ろ姿を私に見せた。
 彼女を追うように三毛猫のマサムネも、ぽってりとしたお尻をこちらに向けて、廊下の角を曲がった。

 先ほどの梅澤由衣という女の子の一件もあり、千石寛が今どの辺りにいるのかを確かめたくて、私は自分の部屋に戻った。
 約四時間ぶりに帰ってみれば、飲みかけのコーヒーは冷めきって、石油ストーブからは灯油の匂いがしていた。
 私は換気扇をまわし、ふたたびストーブに火を入れた。

 こういうときにこそ人肌の温もりが欲しくなる。そして肌と肌が触れ合えば、ぬかるみに嵌るほどの性交を果たしたくなる。
 自分は一体どこに向かおうとしているのか、答えが出ないまま彼にメールをしてみた。
 返信があったのは、それから五分くらいあとだった。

『雪の影響で道路が渋滞しているけど、夕方までには何とか着きたいですね』

こんなにも酷い雪の中なら、引き返すことも選択肢にあったはずなのに、それでも私に会いに来てくれる。彼の気持ちは本物なんだ──。

 気がつけば私はベッドに寝そべり、左手はブラジャーをたわませ、右手は陰部の中を味わっていた。
 突き出た乳頭を指で転がしながら、膣口の粘り気を脳で感じさせていく。
 咲き乱れた陰唇はそれでも花びらをしっかりと蓄え、花の蜜を溢れさせている。

「気持ち……いい……」

 私は声を発していた。浮気心が燃え上がり、貞淑だった私をそうさせていた。

千石さん。はやくこっちに来て。あなたがほんとうに私の思う通りの人なら、この体を好きにしてください──。

 アクメが下から突き上げてくる。抗(あらが)う猶予もなく、私は絶頂に上り詰めた。そして彼のことを思う。


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