ヘタレ男と愛玩奴隷-3
そんな日々が続いたある日、事件は起きた。
「きゃっ?!」
買い出しに出ていたアメリアは、うっかり人とぶつかってしまったのだ。
しかも、運の悪い事に裏路地で、更に相手の男はかなり酔っ払っていた。
「ごめんなさい」
「いってぇ!マジいてえ!」
大して痛くも無いのに大げさに痛がる酔っ払っい。
こんな小さな女の子にぶつかって痛がるなんて、どんだけヤワなんだと突っ込みたくなる痛がり方だ。
「あの……すみません」
わざとだと分かってはいたが、ここは穏便にしたいアメリアはひたすら謝る。
「すみませんじゃねぇよっ!どぉしてくれんだよっ!!」
アメリアの髪をぐいっと引っ張った酔っ払っいは、彼女の首の後ろにある焼き印に気づいた。
「ああん?お前、奴隷かぁ〜?」
酔っ払っいの言葉にアメリアがハッとして強張る。
男の言った通りアメリアの首の後ろには、奴隷の印と商品番号が刻まれていた。
「なら、どうすりゃいいかわかるよなぁ〜?奴隷ちゃん」
男はニヤけた酒臭い顔を近づけてアメリアの顔をべろりと舐める。
「ひっ」
アメリアが息を飲んだその時……彼女の背後から勢い良く水が吹き出した。
「なっ?!」
驚いた酔っ払っいはアメリアを離して無様に尻餅をつく。
アメリアから吹き出した水は、男の目の前でゆっくりと人の形になっていった。
『あめりあヲ傷ツケル事ハ許シマセン』
人型の水から言葉が発せられ、手の部分がスッと上がる。
「ヒイィッ」
酔っ払っいは青くなって尻餅をついたまま後ずさった。
「ダメっ!シーリーさんっ!ストップ!」
アメリアは慌てて男と人型の水、シーリーの間に立つ。
『何故、止メマスカ?ワタクシハあめりあヲ守リマス』
「ありがとう。でも、人を傷つけてはいけません」
『ソノ男ハあめりあノ心ヲ傷ツケマシタ』
シーリーの言葉にアメリアはぐっと詰まったが、それでも譲らなかった。
「ダメです。貴女を危険な精霊にしたくありません」
一度でも人を傷つけたりしたら危険だとみなされる……ただでさえファンは魔法使いが少なく、魔法に対してどこか畏れのようなものがあるのだ。
ケイが受け入れられているのは地元民だから。
よそ者のアメリアとシーリーが問題を起こしたら、ケイやアメリアに魔法を教えてくれているファン宮廷魔導師エンに迷惑がかかってしまう。