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3人
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3人-1

 『藤崎は自分の耳を疑った。世間を騒がせたあの男が俺の部下に?名もない企業を4年前、ついに一部上場にまで押し上げた。自負はあった。俺はその立役者だと、陰の主人公だと。そう思っていた。なのに━━』

 彼は小説を読むのを一旦止めた。憤った。
 なんだ、前の老夫婦は。
 南東京駅4番ホーム。彼は手持ちの本を読みながら電車を待っていた。
 確かだった。間違いなく、彼の前には黒いコートの男がいた。だが今はどうだ。眼前にはコートではなくジャケットを着た2人の老人がいる。ではコートの男は…ジャケットの前にいる。
 ならばそうなのだ。そうゆう事だ。
 割り込みされた━━。


 電車がホームに滑り込んできた。
 許しがたい。必ずこの老夫婦より先に車内に入ってやる。いや、それでは生温い。この2人を列から外させてやる。横に並び、ドアの端に追いやる。列から除外する。
出来るか?
自問した。
いや、出来る。やってやる。マナーもわきまえない社会の老害とでも言うべき愚民共め、必ずや恥を晒させてやる!
 前進した。前が支えた。構わず進んだ。老夫婦の横に並んだ。
今だ、どけ!
直後だった。
後ろから、男が凄まじい力で彼を老夫婦もろとも端に追いやった。
「な…!」

振り向いたが、男は彼に一瞥をくれただけで車内に乗り込んでいった。
 男は、彼と同じ事を後ろで考えていた。
 除外された。老夫婦2人だけではなかったのだ。彼もそうだった。3人いたのだ、愚民は。
俺も割り込んでいた━━。

「お乗りにならないのですか」
呆然と立ち尽くす彼に車掌が声をかけた。
「………」
答えられなかった。乗られる筈がなかった。
かつて自分の後ろに並んでいた人間が車内で、蔑み、嘲り、見下した瞳でこちらを見ている。
恥を晒させる筈が、見事に晒された。

ドアが閉まり、電車は動きだした。
……そうだ。次の電車は何時だろう。
一刻も早くこの4番ホームから立ち去りたいと、彼は思った。


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