第一話(行為なし)-6
まるで忠犬ね、と佐伯先輩が呟いた。
忠犬……ふむ。『犬も歩けば棒に当たる作戦』をやってみるか。
「あ、手が滑った」
と見せかけて肩へのボディタッチを試みた。
「……肩だから許す。でも次やったら死刑な」
逆効果でしたぁぁぁ!
うーん。全然ドキドキしてくれないぞ。
「…………」
そうか忠犬だ!尽くしてるからダメなんだ!押してダメなら引いてみろ!だな。
というわけでそれから一週間、モモ先輩と会わないようにしてみた。
***
「先輩のことが大好きです!」
「なんだ君。諦めたわけではなかったんだな」
「諦めませんよ。先輩を諦めるときは、僕が死ぬときです」
「君はいちいち大袈裟だな」
そんなわけで『押してダメなら引いてみろ!北風と太陽作戦』は失敗に終わった。
「むむぅ…」
どうすればドキドキしてくれるのこの人。
「そんな顔をするな」
「でも僕、先輩と付き合いたいんです…」
「……頼むから、そんな悲しそうな顔をしないでくれ」
「そ、そんな顔してませんよっ」
「している」
意識しないうちに悲しい顔になってるのかな。
「こっちに来い」
「はい?」
言われて連れてこられたのは、誰もいない体育館だった。
もしかしてばっさりと切り捨てられるのだろうか。
「先輩、僕は…」
「何も言うな。君の気持ちに負けたよ」
「……え?」
なんですと?
思ってもみなかった言葉を聞いた気がする。
「私と恋人になってくれ」
「え?えぇぇっ!?」
先輩と恋人になるのはたしかに望んでいたことだ。
が、そんな素振りも見せなかったのになぜ……。
「先輩。もしかして、僕に気を使ってます?」
「違う。ドキドキした…君のことが好きになったから言ったまでだ」
「で、でも照れた様子とかなかったですし…」
「は、恥ずかしいだろ…子どもみたいで…」
え、なにこの娘可愛い。
ボッキーン!股間のムスコはたちまち元気になりました。