交尾タイム-5
晴枝と龍が部屋に残った。
「龍くんと真雪ちゃんは、いつも熱々で素敵ね。」
「え?」飲みかけたカップを口から離して、龍は晴枝を見た。
「ほんとにお似合いだと思うわ。」
「そ、そうですか?」龍は顔を赤らめた。そしてまたカップを口に持っていった。
「ちっちゃい頃から仲良しだったんでしょ?いとこ同士だし。」
「はあ、まあ・・・・。」
店の奥から、犬の声が聞こえてきた。それは唸るような、聞き慣れた犬の吠える声とはちょっと違っていた。
耳をそばだてている龍に向かって晴枝は言った。「今、交配させてるのよ。犬。」
「交配?」
「そう。赤ちゃんを産ませるの。純血種同士を掛け合わせてね。」
「そ、そうなんですね。」
「血統書がついてるワンちゃんを飼いたいっていう人、多いからね。」
「で、でも高いんでしょ?」
「そうねえ。だけど、生まれる赤ちゃんの命に変わりはないのに、どうしてそんなことにこだわるのかしら、って思うことも時々あるわね。」
「あ、あの、」
「なに?」
「メ、メスが、そのオスを嫌がって交配に失敗する、なんてこと、あるんですか?」
「そりゃあね。相性は動物にだってあるわ。」
「そ、それでも無理矢理、あの、や、やっちゃうオスなんて、いたりするんですか?」
「オスは子孫を残そうってする本能があるからね。でも、女の子の方がひどく拒絶したりすることもある。おもしろいわね。そういうところは人間とあんまり変わらない。」晴枝は紅茶のカップを取り上げた。
「あ、あの、見ること、できますか?その、こ、交配。」
「ええ。いいわよ。」店長はあっさり言った。「でもそっとね。あんまり刺激しないように。結構あの二匹いい雰囲気だから。」
晴枝に促されて、龍はその柔らかな光が満ちている部屋にそっと足を踏み入れた。その部屋の中はどことなく神秘的な雰囲気さえ感じられた。
大きめのケージの中で、小さな斑のビーグル犬の背中に、それより少し大きめのビーグル犬が後ろから覆い被さっている。そして腰を細かく震わせ、落ち着かないように小さく足踏みをしていた。
龍はその様子をじっと見ていた。鼓動がだんだん速くなってきて、それをすぐ後ろに立った晴枝に悟られないか、と動揺し始めた彼は、思わず振り返り、焦ったようにそこを出た。
「あれ、龍、どこ行ってたの?」
いつの間にか真雪がもとの白いソファにかけ直して紅茶を飲んでいた。
「え?いや、ちょ、ちょっとね。」
「犬のラブシーンを見てもらってたのよ。」晴枝がにこにこしながら言った。
「交配、うまくいきそうですか?」
「たぶん大丈夫。あの二匹、幼なじみだしね。きっと暖かくなる頃にはかわいいベビーが誕生するはずよ。」
店長は真雪と龍を交互に見た後、微笑みながらまたカップを口に運んだ。