あの頃出来なかったこと-1
「ゆ、優真先輩……」
なんで、と疑問符を浮かべながら自分の行動を思い返してみると、あることに気付いた。
輝美は『輝美(テルミ)』でアドレス帳に登録している。
そして優真先輩の苗字は『寺島(テラシマ)』だ。
さっき、泣いてる姿を人に見られてる気まずさから、急いで場所を変えた。
その時にろくに画面も見ないで操作していたから、間違えて優真先輩の番号にかけてしまったんだ……!
泣きながらも、恥ずかしさのあまりに変な汗が出てきた。
別れた時に優真先輩のアドレスを消去していなかったのは、あたしの心の弱さだったのか。
そんな自分の弱さを後悔してしまう。
『恵』
受話器の向こうから聞こえる、優しい声。
「……すいません、間違い電話でした」
『間違いだったとしても、そんな話聞いちゃったら、いてもたってもいられないよ』
「いえ、あたしは輝美に話を聞いて欲しくて……」
『なあ、なんかあったら相談乗るからって言っただろ? こんな時くらい頼ってくれよ。それともオレじゃ、やっぱりイヤ?』
少し慌てた声に、優真先輩が今どんな顔をしているのか容易く予想がついてしまう。
きっとオロオロしながらも、なんとかあたしを宥めようと頑張って……。
また、溢れて落ちる涙。それが湿ったアスファルトの上にポツリと染みを作る。
「いえ、そんなことは……」
『じゃあ、今からオレん家来て……つーか、迎えに行く。今ドコ?』
「え!? そこまでしてくれなくても大丈夫ですって!」
『ダメ。そうでもしないと恵は絶対オレん家来ないから』
電話越しの強気な声に少し怯む。
優真先輩、こんなに強引だったっけ?
でも、それほどあたしを心配してくれているのかな?
彼の優しさに、瞼をグリグリ擦る。
足の上にポツポツ落ちる涙がドンドン増えて行き、あたしはその場にしゃがみ込んで動けなくなった。