あの頃出来なかったこと-2
◇
「散らかってるけど、入って」
そう言って履き慣れたスニーカーで、狭い玄関に窮屈そうに置かれている靴達を脇にどかす優真先輩。
入ってすぐ左手にあるユニットバスには、優真先輩の脱ぎ散らかした服の塊が落ちていたり、小さなキッチンシンクの中にはカップラーメンの空き容器が溜まっていたりと、本当に優真先輩の言うとおり、散らかっていた。
あたしと付き合っていたときの優真先輩の部屋は、いつも小奇麗だったのに。
女の子が出入りしていないとこんなにズボラになっちゃうのかな。
部屋に入ると雑誌が床に散らばってたり、ベッドの上にはゲーム機のコントローラーがポツンと落ちていたりで、女っ気ゼロだと断言できるくらい男臭い部屋だった。
優真先輩は、床に散らばった服や雑誌をヒョイヒョイつまんでは隅に寄せ、ローテーブルの前にわずかに出来たスペースにあたしを案内してくれた。
ここに来るのは何ヵ月ぶりだろう。
最後にここに来たときは、恋人同士の甘い空間で居心地がよかったのに、今は元カレに頼ってしまった気まずさですっかり居心地が悪くなっていた。
「ええと、お茶しかなくて悪いんだけど」
そう言いながら優真先輩は、冷蔵庫から2リットル入りのペットボトルを取り出すと、小さな食器棚からグラスを出して注いでくれた。
未だ嗚咽が治まらないあたしは、すでに汗をかき始めたグラスを黙って見つめるだけ。
「何があったかってのはさっきの電話で大体わかった。辛かったよな。話してすっきりするならいくらでも言って。……話すのが辛いならいくらでも泣いていいから」
「……先輩……あたし……」
本音を言えば、優真先輩には頼りたくない。
いくら話をできるようになっても、この人は元カレ。
やっぱり線を引かないといけないと思う。
あたしはダラダラくるみさんと関係を続けていた陽介とは違うんだ。
やっぱり帰ろうとフローリングに手をついて立ち上がろうとした瞬間、
「恵、よく頑張ったな」
と、優真先輩があたしの隣にドカッと腰を下ろしてそう言った。