タイムカプセル-7
手紙に書かれた文字は、湿気で毛虫のように滲んでしまっていたけれど、なんとか読むことができた。
不思議とニヤニヤ笑えてきた。
やっぱり母さんは買いかぶり過ぎだ。
僕は大学生でもなければ、立派な社会人でもない。
ただのしがないフリーターだ。
可愛い彼女なんていたことない。
大して可愛くもない彼女ならいたけど、しばらく前に振られて以来、なんの浮いた話もない。
仲良し親子なんて、僕の今までの振る舞いを見てくればそんな言葉がちゃんちゃら可笑しいだろ?
母さん、先見の明が無さ過ぎるよ。
母さんが隣にいたら、思いっきりバカにできたのに。
でも、一緒に飲みに行ったりはしてみたかったなあ、と空を仰いだ。
じんわり涙が目の奥から溢れてきそうになるのをこらえながら、視界の中に入ってきた風にサラサラなびく桜の葉を見つめた。
しばらくの間、明るい青空と、濃い緑色の桜の葉と、ヒラヒラ舞うわずかな桜の花びらをポカンと口を開けたまま、ぼんやり眺めていた。
母さんの十年前の願いを知り、少しでもそれに見合うように前に進まなきゃな、なんて考えだした。
今のままじゃ十年前の母さんの描いた僕の姿とかけ離れ過ぎている。
他のシールやビー玉や腕時計は、正直もういらないから捨てちゃおう。
僕にはこの手紙だけあればいい。
そう思いながら便せんを封筒にしまい込もうとするが、うまく入っていかない。
おかしいなと思って封筒の中を覗いたら、中にもう一枚紙が入っていて、それがつっかえていたのだ。
なんだ、もう一枚手紙が入っていたんだと思い、それを取り出しさっきの便せんとは違う、普段使いのメモ用紙をカサッと開いた。