タイムカプセル-10
母さんは宝物を天国にまで持って行ったそうだ。
母さんの宝物は、大事にしていたダイヤの指輪でも、お気に入りの訪問着でもなく、僕からの手紙だったらしい。
母さんの身体が煙に変わったあの日、10歳の僕の手紙も一緒に煙になって空に昇っていった。
僕の今の宝物は何だろう。
大好きな漫画? 大ファンのアーティストの限定アルバム? 金が無いくせに無理して買ったバイク?
それとも……。
僕は母さんからの手紙を握りしめた。
そして、目を真っ赤にしながら鼻をかんでいる父さんをチラリと見た。
気付くのが遅れてごめん。
そして、気付かせてくれてありがとう、母さん。
そして僕は鼻の詰まった声で父さんに向かって言った。
「なあ、親父。俺がおごるからさ、今日の夜は飲みに行こうよ」
〜end〜