第四章-10
それからしばらく経ったある日、翔太の部屋での事だった。
「あのね、多分手術中じゃないかと思うんだけど私夢の中でお姉さんに会ったよ」
「えっ?」
「真っ暗な所にいて不安でどんどん自分が小さくなっていくような気がしてたら、急に目の前に霧みたいなものが見えて、だんだん形が出来てきて私そっくりの、翔太君のお姉さんだってすぐに気づいた」
「で……それで?」
「頑張って、翔太が待っているよって」
「うん」
「でも私、凄く弱気になっていて、もう駄目、力が出ないって言ったの」
「うん」
「そしたらしょうがないわねって言ってお姉さんが私に抱きついてきて…私とお姉さんがまるで合体したみたいに一つになったの」
「………」
「その瞬間、急に気持ちが強くなって、翔太君にまた会いたい、いや、会わなくちゃって」
「姉ちゃん……」
「きっとお姉さんが私の命を救ってくれたんだと思う、それでまた翔太君に会えた」
二人はいつしか大粒の涙を流しながら互いに強く抱き締めあった。
それからも二人は今まで以上に愛を深めいった。
しかし時々、ある変化がある事に翔太は気付いた。
例えば由紀を抱いている時
「翔太ぁ、イっちゃう………翔太ぁ」
と声をあげ由紀の体から結衣の匂いがしたり、一緒に出掛ける時
「翔太、早く行くよ」
と言ったりと。
翔太が驚いた顔をしても由紀は全く気付いていないようだった。
ある冬の日曜日、その日は朝から二人でデートしていた。
翔太はコートのポケットに手を入れて歩いていると
「もう、翔太、ポケットから手を出して歩かないと転んじゃうって言ったでしょ」
と言う声が聞こえた。
翔太は
「そうだったね、ごめん、姉ちゃん!」
すぐに手を出してそう言った。
由紀はその手に自分の手を絡めて
「翔太君、今日はあそこに行こうよ」
と嬉しそうに話し始めた。
これからもこの幸せな時がずっと続いていって欲しい、翔太がそんな事を考えながら歩いていると横から優しさに満ち溢れた声がハーモニーのように聞こえてきた。
「ねぇ、私達ずーっと翔太(君)と一緒だよ」