里美 第6話-10
「気持ちよかったろ、太一クン」
太一がシャワーから上がってきた時には、夫はもう寝落ちする寸前だった。
太一は相変わらずはにかみ笑いで、こくんとうなづいた。
「じゃぁ、俺は明日も仕事だから先に寝るよ。今日はホント楽しかったよ。またいつでも遊びにおいで、太一クンだったらいつでも大歓迎だ」
夫は心から楽しかったのだろう、里美もこんな事を言う夫は初めて見た。
「はい、ありがとうございます、僕もすごい楽しかったです。おやすみなさい」
太一も笑顔で応えた。
「じゃぁ、おやすみ」
そう言うと、夫は二階の寝室へ上がっていった。
「たいちゃん、じゃぁお布団準備してあるから、おいで」
里美はそういうと太一を手招きした。
「ゆっくり寝てね。朝寝坊してもいいからね」
一階の奥の和室に太一を連れてゆくとそう言った。
太一は何か言いたげにしていたが、里美は気づかないフリをしていた。
「はい、お布団入って」
掛け布団をめくると、未練ありげなサトシをせき立てて布団に入らせた。
「また遊ぼうね」
里美は小悪魔な笑顔でそういうと、布団をかけてやってサトシのおでこをポンポンと叩いた。
「じゃぁ、おやすみなさい。また明日ね」
そう言うと、電気を消してふすまを開けると廊下に出た。
「はい…おやすみなさい。。。」
「あっ、たいちゃん」
ふすまを閉めようとしていた手を止めて、太一に声をかけた。
「はい?」
怪訝そうに、でも名前を呼んでもらってうれしいのか、明るい声で太一が言った。
「お願いが有るんだけど、聞いてくれるかな」
「はい!なんでもいいですよ」
里美が言い終わるか終らないうちに、太一が返事した。
里美はもう一度部屋に入ると、こぶし一つほどふすまを開けて太一の所に行った。
廊下の先の照明が微かに入る薄暗い部屋の中で、太一の所へ行くとしゃがみこんだ。