迷惑な来客-1
勝雅は寛ぎ部屋から出た。
(22時37分)
宮原のボンクラ! とんでもないことしやがって!
勝雅は怒り心頭に発していた。急ぎ足で美恵子の部屋の前まで来た。
「おーい美恵子、えらいこっちゃっで」
ドアをドーンドーンと叩いた。
「はーい」
紫色のネグリジェを着た美恵子がドアの隙間から顔を見せる。何事かと不安げな表情だ。
「大変なことになった」
「さーちゃんがどうかしたの?」
「そうじゃない。宮原だ」
「宮原って…あの宮原さん?」
「そうだ。他にいるか?宮原のボンクラが、今からやってくる」
「なぜ…?」
「朋美も一緒だ。くそったれどもが…」
「えっ……朋美と宮原さんが……?」
「ああ…宮原の奴、色気づきやがって…」
「朋美、お店どうしたのかしら?」
「店は休んだらしい…。有賀に愛想を尽かして、宮原に乗り換えやがった」
「あなた、妹のことを悪く言わないで…」
「悪く言ってない。とにかく大変だ」
「大変って…。ふたりはなぜうちに?」
(鈍い奴…)
「有賀の粗暴さに愛想を尽かしたのさ。宮原を抱き込んで逃避行を企てやがった」
「逃避行……。あなた、冷静になって。宮原が朋美を誘惑したのかもしれないし…」
「そんなこと、どっちでもいい!」
「よくないわ」
(イライラする奴だ。議論にならん)
「とにかく、豊明会(ほうめいかい)の有賀を敵にまわしたくないんじゃ。なんとかせにゃあ…」
「あなたの裁量でなんとかできるでしょう?」
「ああ、なんとかする。とにかく…空き部屋に布団用意しておいてくれ」
「はい…。あなた、お客さんが来るのに、その格好はないでしょう」
Tシャツと白ブリーフ姿に眉を顰めた。
「分かっておる。おまえもすぐに着替えて」
「言われなくても、分かってます」
(口の減らない女だ)
勝雅は急ぎ足で寛ぎ部屋に戻った。
ドアをそっと開ける。紗綾の瑞々しい乳房が、仄かな明かりに照らされていた。ネグリジェの前をはだけたままで、身じろぎもしていない。眠っているのではないかと思ったが、そうではない。目を開けて虚空を見つめていた。
「さーちゃん」
呼び掛けると、ハッとして、手のひらで乳房を隠した。
「今からボンクラ野郎が美恵子の妹を連れてやってくる。しばらくここにいなさい」
紗綾は返事しない。
「さーちゃん、返事は?」
「はい…」
白いカッターシャツを着て、黒いズボンに足を通した。
瀬田朋美は、豊明会の若頭補佐・有賀の情婦だ。豊明会の奴らが攻めてくる可能性だってある。勝雅は引き出しからトカレフという拳銃を取り出した。