迷惑な来客-2
拳銃を手提げの紙袋に入れ、左手で紙袋を持ちながら、玄関に向かった。廊下を歩いていると、美恵子の後ろ姿が見えた。宮原たちを迎えるために玄関に出向くところだろう。ちゃんとブラウスとスカートに着替えていた。
「宮原と朋美さん、もうこちらに向かっているそうだ」
背中に向かって語りかけると、美恵子は振り返り、妖しい笑顔を見せた。
「なにを笑っている?」
「朋美のことを朋美さんと言うなんて、初めて聞いたわ」
「そうか……」
「あなた、それは何?」
紙袋の中を覗き込んできた。
「おまえには関係ない」
「拳銃じゃないの? いったい何を?」
「もしものことを考えた」
「もしもって?」
家の前に車が停まったような音がした。そして、微かに男の声が―。
(タクシードライバーとの会話か? 宮原だな)
「来たようだな」
門扉を開けるギィーという音が聞こえてきた。
玄関のドアロックを外し、そっと細めに開ける。薄い闇の中、宮原と朋美がこちらに向かってくるのが見えた。
22時48分。
(ボンクラが色気づきやがって…)
「おやっさん、こんばんは」
「ああ……」
「どうしたんすか? 元気ないっすね」
アロハシャツを着た短髪の男、宮原はまったく悪びれたようすがない。
「ふつうだ。それよりも有賀は知っているのか?」
「えっ?」
「豊明会の有賀だよ。朋美さんは有賀とおつきあいしてたんだろ?」
「どうしたんすか? 恐い顔して? ええ、朋美は有賀とつきあってましたが、それは過去の話っすよ」
「過去ですか…」
「ええ、過去です」
宮原はふてぶてしい。開き直っているのか?
「しかし、有賀は豊明会のバクダンと呼ばれている男。おまえたちが駆け落ちしたことを知ったら、どう思うか?」
「おやっさん、心配せんでもいいっすよ。しばらくここにかくまってもらったら、有賀はあきらめるっしょ」
「そうだろうか?」
「おやっさん、俺ら、腹減っているんすよ。食事お願いできますか?」
(何が食事だ! 馬鹿者が)
「今日はもう遅い。明日でいいだろう?」
宮原琢也の横で話を聞いていた瀬田朋美が一歩前に出てきた。ヒョウ柄のカットソー、足首が見えているジーンズに身を包んでいる。相変わらず、化粧が濃い女だ。
「琢ちゃん、今日は荷造りを手伝ってくれていたから、何も食べていないのよ」
「荷造り?」
「部屋にあった貴重品だけ、今池の実家に送ったから…」