モトカレシ-5
「……とにかく恵はもう一度彼氏と話し合うべきだと思うよ」
優真先輩は、まっすぐあたしを見つめてそう言った。
「でも、あたし陽介に振られたし……」
「でも伝えたいことも伝えられないのに、このまま別れるなんて納得いかないだろ? 結果がどうであれ、恵の今の気持ちを彼氏に伝えないと絶対後悔するよ」
「……でも」
「オレは、恵にちゃんと気持ちを伝えられないまま終わってしまったこと、ずっと後悔してたよ?」
そう言う優真先輩の顔は真剣そのもの。
優真先輩は、浮気があたしにバレた後、その浮気相手である、これまた同じゼミの紗理奈先輩と付き合うもんだと思っていたけど、どうやら未だに誰とも付き合っていないみたい。
かと言って遊んでる噂すら聞かなかったし、後悔してたと言う優真先輩の顔は嘘ついているようにも思えない。
あたしが思っていた以上に優真先輩はあたしを好きでいてくれたのかな、と思うと顔が熱くなる。
西日が差し込んであたしの顔を黄金色に照らしてくれて、よかった。
「だから、恵にはオレと同じように後悔して欲しくないんだ」
「優真先輩……」
「怖いかもしれないけど、頑張れ。どうしてもしんどいときはいくらでも話聞くから」
その言葉を聞いた瞬間、収まっていた涙がまた溢れだしてしまった。
両手で顔を覆って俯いていると、また頭をグリグリ撫でられる感触。
その乱暴な励まし方がとても嬉しかった。
だからあたしは、覆っていた手をそっと離し、敬礼するみたいに右手を額にあてると、
「はい!」
と、ここ数日で一番元気な返事をした。
そんなあたしを見て安心したのだろうか、優真先輩はフッと笑う。
「よし、じゃあオレはあと帰るから。なんかあったらいつでも電話して。今度は友達として相談に乗るから」
優真先輩はそう言ってヒラヒラ手を振ってから、教室のドアノブに手をかけた。
西側の窓とは反対側のドア。磨りガラスの向こうは群青色に近い闇。
付き合っていた頃は、ゼミが終わってからもしばらく残っておしゃべりしていて、気付けば夜なんてことはしょっちゅうあった。
なんとなく、懐かしくて胸の奥がくすぐったい。
「ありがとうございます」
目を細めてから頭を下げて、優真先輩の背中を見送る。
憂鬱だったはずの金曜日が、元カレのおかげで久しぶりに笑顔になれるとは夢にも思わなかった。