モトカレシ-3
まさか陽介とのことを、優真先輩に話すとは夢にも思わなかった。
それより何より、いまだにあたしを気にかけていてくれた優真先輩の優しさ、それが身に染みてあたしの涙線を刺激し続けていた。
「そうか」
あたしの話を聞き終えた優真先輩は、なんとも微妙な顔つきであたしをチラリと見た。
その視線がまるで哀れまれているようにも見えて、まともに彼の顔を見れない。
西日が差し込むだだっ広い教室は、違った種類の気まずい沈黙で張り詰めていた。
でも、そんな沈黙を破ったのは優真先輩の方だった。
「そんな独占欲が出てしまうほど彼氏のことが好きなんだ」
「はい」
「……即答かよ。やっぱり妬けちゃうな」
意外な台詞に驚いて顔を上げるとそこには苦笑いを浮かべた優真先輩がポリポリ頬を人指し指で掻いていた。
「いや、警戒しないで? さすがに恵のことはもう諦めているから。たださ、オレと付き合ってたときには恵はやきもちなんてまるで妬かなかっただろ? その恵が感情剥き出しにしてるの見てたら、オレと付き合ってた時の好きよりもっともっと好きなんだなあって思っただけ」
言われて気付く。優真先輩と付き合っていた頃のあたしは確かにやきもちなんて妬かなかった。
だから優真先輩が浮気していたことに気付かなかったってのもあるんだけど。
「……でも、あたし優真先輩のことちゃんと好きでしたよ?」
「ハハ、ありがとう。でもオレ、そう思えなかったんだよね」
「へ?」
真っ赤な瞳で優真先輩を見れば、彼はガタンと立ち上がって窓際に歩いていった。
西日が眩しくて目を細めながら見えてくる景色は、夜へと顔を変える高層ビルの群れ。
黄金色の光を背に、こちらを見る優真先輩の姿は逆光でよくわからないけど、おそらく笑っている、そんな気がした。
「今だから言うけどさ、恵はオレを好きじゃないかもしれないってずっと自信がなかった」
「優真先輩……」
「ずっと身体を拒まれ続けて、ムカつくなんて言いながら他の男の話ばかりしてさ、恵はオレを男として見てないんじゃないかってちょっとイライラしてたんだよな。だからってオレのしたことは許されることじゃないんだけど」
窓を背もたれにしつつ、ジーンズのポケットに手を突っ込みながら笑う優真先輩。そんな彼を見てたら嗚咽もいつの間にか止まっていて、あたしもフッと気の抜けた笑みを溢していた。