モトカレシ-10
静かな住宅街の中をトボトボ歩く。
上を見上げれば、どんより雲がかかっていて夜の闇を一層濃いものにしている。
明日は雨になりそうだ。
そんなことを考えながら、あたしはさっきの出来事を思い出していた。
陽介のことになると泣いてばかりだ。
付き合ったばかりの頃はあんなに幸せだったのに。好きすぎてあたしの気持ちが歪んでしまって。
こんな恋ならしなければよかった。
もっとちゃんと優真先輩と向き合っていれば、穏やかな恋をしていられたのに。
10分ほど歩いた所で、たどり着いたコンビニの駐車場。
そこの入り口の脇であたしはバッグからスマホを取り出した。
「輝美……、彼氏と一緒かな」
一人になりたくない一心でスマホのディスプレイをいじるけど、涙で滲んでよく見えない。
鼻をすすりながら、スマホを操作していると、仕事帰りと思しき中年のサラリーマンがあたしを訝しそうに見た。
泣いているから、変に思われているのかも。
あたしは慌てて人気のない店舗の横に移動してスマホを耳にあてた。
しばらく電話の向こうで鳴り響くコール音。
5、6回ほど呼び出した後で相手が電話に出たので、あたしは間髪入れずに口を開いた。
「もしもし、輝美? あたし、陽介んとこ行ってきたんだけど、完全に別れちゃったんだあ。あの前に話してた陽介のセフレ、あの娘と一緒だったの。最低だよね、もう他の女連れ込んでさあ。あんまり頭にきたから『もう陽介なんかいらない』って啖呵切ってきちゃ……」
勢いだけで出た言葉も徐々に失速していき、最後は涙に詰まって何も言えなくなってしまった。
『…………』
いきなり電話であたしに泣かれて、輝美も何も言えないようで。
「ごめん……。ワガママ言うけど、今から輝美の家行ってもいい……? あたし、もう自分がどうしていいのか……」
ヒックヒックとしゃくりあげながらも、何とかそこまで頑張って言うと、次の瞬間信じられない言葉が返ってきた。
『――輝美さんじゃなくて、オレん家でもいい?』