王子様の憂鬱-1
「はあ?!そんな急にっ!どういう事ですか!?」
魔法大国ゼビアの王宮に、カイザス国第3王子デレクシスの声が響く。
『急では無い。何度も帰って来いと言っていたではないか』
魔法の鏡に映っているのはカイザス国王……つまり、デレクシスのお父さんだ。
「私も何度も言いましたよね?!適当な護衛が見つからないと……」
『だから、こっちで用意した。アース殿が連れて行くから。気をつけて帰ってこいよ。ではな』
「ちょっ……父上?!父上ぇっ!!」
一方的に通信を切ったカイザス国王に向かってデレクシスは叫ぶが、鏡には自分しか映っていない。
デレクシスはガクンと首を落として、頭のてっぺんで鏡をゴツゴツ叩くのだった。
ぶっすーと不貞腐れた顔で部屋のソファーに座っているデレクシスに、部屋の主であるゼビア国王ドグザールが焼き菓子を投げつけた。
「人の部屋に来といて不っ細工な顔すんじゃねぇ」
パコーンと額に当たって空中に飛んだ焼き菓子を、デレクシスの肩に乗っていたえらく派手な鷲がくちばしでキャッチする。
それをくちばしと脚を使って器用に割ると、反対側の肩に居る飛び魚に渡した。
鷲はデレクシスのパートナー風の精霊ザック、飛び魚はかつてデレクシスが愛した女性のパートナー水の精霊ポゥ。
2体は仲良しこよしで、正直羨ましいくらいだ。
「申し訳ありませんね。元からこういう顔なもんで……」
「嘘つけ、馬ー鹿」
デレクシスは精霊達を眺めつつ憮然と答え、ドグザールはお茶を飲みつつ苦々しい顔をした。
「デレク王子のお気持ちは分からなくも無いですけどねえ」
険悪ムードを無視して割り込んだのは、ドグザールの妻イズミ王妃。
「分かって頂けますよね?!イズミ王妃」
「まあ、王族ですもの。親の言う事には従わなければならないのは仕方がないと言えば仕方がないのですけど……やはり一方的に決められるのはねえ?」
イズミもドグザールと結婚する前は、東の大陸サイラ国の第2王女だった。
父王の決めた通りに婚約者と結婚する予定だったが、顔合わせの際ドグザールが乱入してイズミを拐った。
あれが無ければ望まない結婚をしていただろうと思うと、正直寒気がする。