王子様の憂鬱-4
「父がフィシュラ導師にお会いしたいと申してましたよ」
「私はもう歳ですから移動は無理ですわ……あら、戻って参りましたわね」
話の途中で魔法陣が光だし明滅する。
転移の魔法は出発点と到着点に魔法陣が必要だ。
前ゼビア魔法学校学長、現ファン宮廷魔導師のベルリアが、恋人であるファンの巫女長ミヤと逢い引きする為に作った魔法陣が現在大活躍。
但し使えるのは魔導師クラスの魔法使いのみで、長距離だと出発点側と到着点側に1人ずつ必要だ。
出発点側の魔導師が魔法陣を発動し、到着点側の魔導師が魔法陣が問題なく働いているかを監視する。
大量の魔力と繊細な作業が必要な大規模な魔法……それをサックリ作ってあっさり使いこなしているあたり、さすが魔法使い最高ランクの魔導師と言わざるをえない。
そんな事を考えているデレクシスの目の前で、魔法陣の明滅が明だけになってくる。
そして、細いリボンの様な物が現れて光の中でぐるぐると渦巻きだした。
それは螺旋を描いて徐々に量を増やし、ゆっくりと人の形になっていく。
瞬きをする度にはっきりとしてくるそれは、まぎれもなく魔導師アースとキアルリアだ。
「っ……ふぅっ……ただいま、婆ちゃん」
無事に転移が終わると、片膝をついた姿勢のアースは息を吐いてフィシュラに挨拶をする。
「おかえりなさい。坊や」
フィシュラは婆ちゃん呼ばわりされた事を気にするでもなく、受け側の魔法陣を解除してアースの頭をくしゃくしゃと撫でた。
アースはくすぐったそうに笑い、デレクシスに目を向ける。
「ただいま、軽薄王子」
「おかえり。アース殿、キアルリア姫」
以前のあだ名で呼ばれたデレクシスは苦笑してアースに手を差し出した。
いくら魔導師とはいえ転移魔法はキツイらしい。
デレクシスの手を借りて立ち上がったアースの手は、汗ばんで異常な程熱を持っていた。
「っあ〜…気分悪っ」
アースの後ろに居たキアルリアも口に手を当てて吐き気を我慢している。
そして、更に後ろに居る護衛らしき人物に至っては……。
「おえぇぇぇっ」
完全に吐いていた。
小さい身体なのに筋肉質……灰色の髪の間から同色の獣耳……へにゃんと垂れたストレートの長い尻尾も灰色。