王子様の憂鬱-3
廊下を歩いていたデレクシスは、ふと足を止めて深々とため息をついた。
(なんか、取り残されてる気分だなあ)
バリーは自分の居場所を見つけ、独身で跡継ぎ問題に困っていたドグザールは、自らの手でサイラの第2王女を手に入れて、彼女は愛でたくご懐妊。
デレクシスは無意識にネックレスを指で弄りながら窓の外を見た。
視線のはるか先には海……愛し合った500年前の女性の事が忘れられない。
(何も変わってないのは私だけか……)
愛した女性は人生を全うして、既にこの世に居ない。
分かっている……彼女が幸せだったのは、彼女と一緒に時を過ごした魔獣グロウと彼女の精霊ポゥが見ていたのだから。
だから、自分も幸せにならねばならない……それが彼女の望み。
分かっていても、どうにもならない気持ちはどこに持っていけば良いのか……デレクシスは再びため息をついて廊下を歩いていった。
数日後、ゼビア魔導師アースが妻キアルリアと共に帰還した。
ファン国の王弟、ギルフォードの妻ステラが出産との事で、2人してひと月程ファンに里帰りしていたのだ。
そこでも色々と首を突っ込んで暴れたらしいので話を聞くのが楽しみだ。
まあ、父王の決めた護衛も一緒に来るのだろうが……とにかく、もう気が合えばいいや、と考える事にする。
転移の魔法陣がある部屋には宮廷魔導師フィシュラが待機していた。
「デレク様。それにザックさん、ポゥさん、こんにちは」
部屋に来たデレクシスに気づいたフィシュラは輝くような笑顔を見せた。
齢80歳程のおばあちゃんの笑顔はとても可愛くて、こっちもほっこりしてしまう。
「フィシュラ導師、ご機嫌うるわしゅう」
膝まづいて手の甲に唇を落とすデレクシスに、フィシュラはクスクス笑った。
「デレク様はご機嫌斜めですわね?」
話は聞いた、と言うフィシュラにデレクシスは苦笑を返して立ち上がる。
「仕方ない事ですけどね。ああ〜…私のバカンスも終わりかぁ……」
礼節にうるさくないゼビアの城はとても居心地が良かったのに、とデレクシスは項垂れた。
「私も寂しくなりますわ。せっかく血縁者と会えましたのに」
魔導師フィシュラはデレクシスの子孫。
間違ってはいけない、デレクシスの方が祖先だ。