投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

私の王子様
【その他 その他小説】

私の王子様の最初へ 私の王子様 0 私の王子様 2 私の王子様の最後へ

クラスニー王子-1

私の名前は尾鞍浜美紀(おくらはま みき)、魚原郡栄浜村の漁師の娘だ。

中学3年生で高校進学を控えているんだけど、私には憧れの王子がいる。

それは手が届かない雲の上の人だけれど、クラスニー・S・ラーディッチ王子だ。

クラスニー王子は億万長者で王族で、その上有名なテノール歌手なのだ。

敬虔なクリスチャンで賛美歌の歌声は魂を揺さぶる天上の声に等しい。

しかも大の日本びいきで日本語も上手と来ている。

今まで何度も来日していて、主に首都でコンサートを開いている。

そして、そのお姿は神々しく天使のように輝いている!

1ヶ月前、私は死に物狂いで等身大ポスターをゲットした。

わざわざ鳥永(とりなが)市のCD屋に前の晩から並んで先着100名限定のポスターを手に入れたのだ。

今それは私の部屋の壁に貼ってある。

上にビニールを被せて、ポスターを傷つけないように画鋲で留めている。

そして私はとうとう王子さまに関しての物凄い情報を掴んでしまった!

私が入っている日本ファンクラブの速報によると、こっちの方面にお忍びで観光に歩いていらっしゃるというのだ。

つまり栄浜村の前を通る県道を南から北上して来る可能性が大きいらしいのだ。

なぜ国道を通らずに県道沿いに来るかと言うと、栄浜村の前後には有名な観光スポットがあるからだ。

栄浜村には海洋記念館という無駄な3階建てがあるだけだが、その前後には白砂海岸とか無尽奇岩とかいう名所がある。

多分これを見ながら北上して来ると考えれば、絶対確実に栄浜村を通過すると思う。

ただ、どんな車に乗って通るのかは秘密らしくてファンクラブの情報でもわからない。

私は親友の戸呂部千佳(ころべ ちか)と一緒に携帯のカメラを構えて待ち伏せすることにした。

千佳は私の強力なライバルだ。勉強のじゃなくてクラスニー王子を取り合っている相手だ。

今は休戦協定を結んで協力して撮影しようとしている。千佳は言う。

「美紀は王子様ならオープンカーとかリンカーンに乗って来ると思ってるでしょう?

ところがどっこい、そうはイカの金タマよ。

お忍びだから、ばれないように2トントラックの荷台にムシロを被って乗ってくるのよ」

な……なんという罰当たりな発言をするの。王子様をトラックの荷台に乗せるなんて!

しかもムシロを被せるなんて、あんたそれでもファンなの?

「だからあんたは素人なのよ。マスコミを欺く為にはまずファンからって言うじゃない?

絶対そんな車には乗らないだろうという予想を裏切るってこと。

そうしなきゃすぐ自分が乗っていることがばれてしまって観光どころじゃなくなるわ」

なるほどそうか。

けれどもそれをやると王子のイメージダウンになるから、私はやっぱりオープンカーが良い。

第一それの方が王子を撮影できるもの。

私たちは休日の朝早くから国道沿いをカメラを構えて待ち構えていた。

いつ通るかわからない王子の車を待ちながら。

そこへオープンカーでもない、2トントラックでもないワンボックスカーがやって来た。

千佳はカメラを下げて私に言った。

「これは違うね。どこにでもある、釣り場目当ての車だよ。

だいいち2トントラックでもないし、リンカーンでもない。絶対違うよ」

私も同じ意見だった。だって、その車は通過しないで海洋記念館の方に行ったから。

クラスニー王子があんなダサイ海洋記念館に行く筈がない。

栄浜村の者は誰1人2度と行こうとしない詰まらない建物だから。

そのときだった。激しい地震に見舞われたのは。

げげげ……なんでこんなときに!



 


私の王子様の最初へ 私の王子様 0 私の王子様 2 私の王子様の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前