ツェツィーリア【1】〜8月19・20日(月・火)〜-5
「えっと、こちらこそ。ツツーリアさん」
せっかく名乗ったのにまた『ツツーリアさん』と呼ばれてしまいました。
「ハヤトさん。さっきから気になっていたのですが、ワタクシの名前はツェツィーリアですわ」
そう言うと彼はしばらく口の中で呼ぶ練習をした後、改めてワタクシの名前を口にした。
「ツツーリアさん」
「……それでいいです」
ため息が漏れる。
日本人にとって言いづらい名前だとは理解していますわ……。
「ツツーリアさんって年いくつ?」
ハヤトさんの背中を見つめて歩いていると、何気ない質問が飛んできた。
「もうすぐ十八ですわ。ハヤトさんは?」
「十七。外人って見た目より若いことが多いなー」
『外人』という単語を聞き、ぴたりと足を止める。
「その呼び方……やめてくださる?」
「え?」
外人――外から来た人。よそ者。
まるで迫害されている気分になる。
「ワタクシは外人ではなくってよ!?ドイツ人ですわ!」
怒りに任せて吠える。
「あっ」
またやってしまったと口を押さえ、おそるおそるハヤトさんの顔色を窺う。
「ハヤトさん、ごめんなさいその、ついカッとなってしまって」
「あ、いや。俺のほうこそごめん」
「ですが、あの、ワタクシ日本の方が仰る『外人』や『日本語上手いね』という言葉が、どうしても好きになれなくて」
日本人が悪意で言っているわけではないと頭では理解しているつもりでも、どうしても許せない。
「ごめん。もう『外人』なんて言葉は使わないよ」
ハヤトさん――ハヤト様はうつむいて謝罪している。
「……ありがとうございます。ハヤト様はお優しいのですね」
「え、んや、普通だよ」
どうやら照れた様子のハヤト様。
可愛い。そう思ってしまい、もう自分の気持ちを認めざるを得なかった。
ワタクシは、この方が好きなんだ……。
***
「ただいまー」
「お邪魔します」
これからしばらくワタクシが住む、ハヤト様の質素な一軒家に到着しました。
「やぁやぁいらっしゃい」
貧相な顔をしたおじ様が出迎えてくれた。
「なんだよ父さん。人に迎えに行かせといて……用事はもういいのか?」
父さん……ではこの方がジュンイチさんですわね。