隼人【2】〜8月20日(火)〜-1
「やったな隼人。お前の人生はハーレムだ」
「…………」
好きな人に嫌われたかもしれない時にそんなことを言われても、バカにされているとしか思えない。
「隼人。お前は葵さん――君のお母さんに似ているね」
「母さん……?」
「ああ。そっくりだよ」
俺の母さんは俺を産んですぐに亡くなったそうな。
なので母さんのことはまったく覚えていないし、父さんが母さんの話をするのは珍しいので耳を傾けた。
「僕と出会うまで、葵さんはかなりの遊び人だったみたいでね」
「…………」
息子にそんな話をするなよ。
「隼人はそんな葵さんに似ている」
「嬉しかねーよ!」
「まぁまぁ。聞いてくれよ五十二代目」
「妙な呼び方をするな」
なんだよ五十二代目って。ヤクザの跡取りじゃあるまいし。
「お前に話すのはまだ先だと思っていたんだけれどね。美咲ちゃんが覚醒してしまっては、話さないわけにもいかない」
「?」
なんのことを言っているのかさっぱりの俺に、父さんは優しく説明してくれた。
無花果の血に流れるユグドラシルのこと。
ユグドラシルによって覚醒する性剣士のこと。
性剣士が持つ性剣のこと。
そして願いを、夢を叶える七性剣のこと。
「……その話が本当なら、美咲は俺のせいで発情して――苦しがっていたと?」
「そうなるね。さっき美咲ちゃんを見かけたけれど、覚醒しただけにしては発情が過ぎる」
恐らく、と父さんは言葉を続ける。
「美咲ちゃんはお前のことが好きで、そのうえ小さい時から仲良しの幼なじみだ。そのせいで発情が凄まじいんだろう」
まるで息子の彼女が淫乱みたいに言うなよ。
例え美咲が淫乱でも全然オッケーだけどな。
「で、どうすればその発情をなくせるんだ?」
「結果を言うと、覚醒してしまったからには手遅れ。発情しなくなることはない」
「そんな……」
じゃあ美咲はこれから一生、あんな苦しそうな顔をして生きていくのかよ……。
「ただ、発情を抑制させることはできるよ」
「本当か!?」
そんな方法があるならさっさと言ってくれよな。