隼人【2】〜8月20日(火)〜-4
きょろきょろと辺りを捜してみると、ツツーリア?さんと特徴が似ている女性を発見した。
しかし何やら男性(日本人)に話しかけられ、日本語がわからないのか困っている様子。
「あ、ツツーリアさん!」
「あん?」
親しいのを装って声をかけると、男性とツツーリア?さんらしき女性がこちらに顔を向けた。
「おかえり、ツツーリアさん」
ツツーリア?さんらしき女性の両手を握ってぶんぶんと上下に振る。
彼女は当惑していたけれど、構わずぎゅっと抱きしめた。
胸の辺りに柔らかい感触――おぱーーーい!
「ちっ、野郎もいんのかよ」
舌打ちをして去っていく男性。
それを見計らって彼女を解放し、抱きしめたことを英語で――ハグソーリーと――謝る。
「英語でなくても結構ですわ」
「え……あ、日本語話せたのね」
勝手な思い込みで日本語ダメダメなのかと思っていたけれど、そんなことはなくむしろ上手い部類だ。
「先ほどの男性を追い払うために、親しい振りをしただけのことですわよね?」
「もちろんです」
実はちょっと、いやかなり下心があったんだけれど、わざわざそんなことを言ったりはしない。
「そうですか。その件に関しては素直にお礼を言わせてもらいます」
ですが、と彼女は続ける。
「どうしてワタクシの名前を知っていたのです?」
む。つまりこの人がツツーリア?さんで間違いないようだな。
「はじめましてツツーリアさん。俺は無花果隼人っていいます」
「イチジク、ハヤト……イチジク?」
「そ。君がホームステイする家の息子」
「……そうですか。安心しました」
安心?あぁそうか。知らない男に名前を呼ばれたらびっくりするよな。
「じゃあ行こっか」
そう言って歩き出そうとしたのだが、ツツーリア?さんに待ってくださいと呼び止められた。
「名乗られたら名乗り返すのが礼儀ですわ」
「はぁ」
もう名前なんて知っているんだし、別にわざわざ名乗らなくてよいのでは。
そう心の中でだけ思っておく。
「ワタクシの名前はツェツィーリア・ワーグナー。これからお世話になりますわね、ハヤトさん」
ツツーリアさんは右手を差し出してきた。
「えっと、こちらこそ。ツツーリアさん」
それに応え、握手をする。