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どれぐらい経っただろう。
自分の血なのか相手の血なのかも分からないが、右手の拳は赤黒く染まっていた。
歯に当たったのだろう、拳は端々が切れて、痛みの感覚すら無かった。
男子学生二人は、呼吸はしているがまともに動けない状態になっていた。
用具室には、絢のすすり泣く声と、誠の荒い息遣いだけが響く。
「.......誠....くん.....」
絢は、振り絞ってようやく出たであろう、か細い声で呼んだ。
その声で、誠は我に帰る。
振り向いた先に絢を見て、誠は言葉に詰まった。
ボタンが飛ばされたブラウスは下着が見えるまでにはだけ、乱された髪で見えにくいが頬には痣もある。
自分が知っている、いつも笑顔でじゃれてくる絢ではなかった。
「.....あっ....絢ちゃん.....」
「............誠くん.....ありがとう....」
その震えた声に、誠は何も言えなかった。
息をすることさえ阻まれた。
少しずつ、歩み寄る。
絢に起こった事態。
想像するのも嫌になる。
表情を失った絢を前にして誠は涙が出そうになったが、必死に耐えた。
自分のブレザーを脱いで、努めて優しく絢の肩に掛ける。
触れた絢の肩は、小刻みに震えていた。
「.......うぅ......」
絢は、誠の胸におでこを寄せて、そのままへたり込んでしまった。
無言で絢を抱きしめる。
何も声を掛けられない、ただ抱きしめることしか出来ない自分に、誠は怒りと憤りを感じた。
「絢ちゃん.....」
泣き崩れた絢を、優しく撫でる。
誠は、自分の後ろに立つ影には気付かなかった。