生徒会へようこそ【MISSION'6'犬のキャロルを発見せよ!】-9
「話逸れちゃったね!」
早羽さんは赤くなった頬を自分の掌で包むと、慌てて軌道修正を図った。
「とりあえず、そんな感じで私は退学を免れたんだけど…」
ああ、そうだった。その話だ。
自分の気色悪い発言がきっかけで話が逸れてしまったんだった。
でも、二人とも僕のおっさん臭い呟きは忘れてまったようだな。うん、良かった。
「でも、この学校委員会活動が盛んでしょう?だから、自由がきく委員会作ろうぜって何故か渡邊先生が乗り気になっちゃったの」
オッさんの言ってた『言い出しっぺはナベ』ってそういうことだったんだ。
「それで作ったのが生徒委員会!予想通り、暇でしょ?」
「たまにえげつないの舞い込んできますけどね」
僕がハハハと苦笑する。
そっかー。早羽さんは渡邊先生に自主退学の危機を救ってもらったのかぁ。
早羽さんが生徒委員会をつくった話と渡邊先生が早羽さんを救った話は、生徒委員会設立において原因と結果って訳だったんだな。
「それから、暇そうにしてる乙を勧誘して、次の年にやたら目立ってたあの二人を引き入れて、今年は君たち」
突然早羽さんの透き通った瞳に見据えられて、ドキンとした。同じように見つめられた宝さんも、緊張した面持ちをしている。
「みんなの厳選なる審査で選ばれた大切な二人なんだから、期待してるよ」
胸が震えた。ざわざわと踊り出しそうでむず痒くて、口許が弛んだ。
小さいけれど、でも確実に、腹のそこが熱くたぎっているのを感じた。
期待されている。自然と自信が湧き出てくる。
「はい!頑張ります!任せてください!」
急に宝さんが大声を出した。
しまった…先を越されてしまった。
「…ください」
僕は情けなく笑った。
「ねぇ、オッさん。暑いです」
「そ〜だな〜」
オッさんは床にうつ伏せになり、微動だにしない。
「今日はもう帰りましょ?あの日からお客さん、一人も来てないですよ?
一週間、だぁぁぁれも僕らを必要としてないってことですよ。ねぇ、帰りましょ?」
僕はあの日、間違いなくやる気に満ち溢れていた。明日への希望と光輝く未来を胸に、生徒委員会の活動を誇りに思った。
…なのに空回りだよぉぉぉ!!どうしてくれるんだよ、この熱い想い!溢れんばかりのやる気を僕はどこに向けたらいいんだよぉぉぉ!!
恥ずかしい!目をキラキラ輝かせていた自分が恥ずかしいよ!
あの日から一週間。僕は現実を嫌という程思い知らされたのだった。
「あの日ほどとは言わないけど、もう少し依頼があってもいいものなのにな」
キミさんの言う通りだ。
「ホーント!暇ぁ〜、死んじゃう〜!!」
小鞠さんが足を投げ出して天を仰ぐ。
「では皆さん!地球の未来について真剣に語り合いませんか!?」
…却下。みんな敢えて何も言わないけど、空気がその話題を拒否している。
あ〜あ、せっかくの夏休みなのに何も良いことなんて無い。
「へぇ。じゃあ寿絵瑠ちゃん、私と熱く語ろうか」
いや、一個あった。すっごく良いこと。
手に沢山の教科書を抱えた早羽さんが入ってきて、いつもの席に座った。
すっごく良いこと。早羽さんのいる第4多目的室が当たり前になりつつあること。
「早羽さん!補習どうです?進んでます?すっごいつまんなそうですけど!」
「すっごいつまんないけど暑いここにいるよりはマシだから、ゆっくり進めてるよ」
小鞠さんに教科書を見せながら早羽さんが笑った。
僕もその教科書を覗き込む。
どうやら単位に必要な分の課題は終わっているようだ。補習を受けて勉強している振りをしているのだろう。
わかりきった勉強をするのは、そりゃあつまらないだろうな。
「おい、早羽ぁ。それどういうことだよぉ」
床でオッさんが呻く。
「時間を有効に使ってるだけ。私がいなくて困ったことあった?」
「…」
その言葉にオッさんは静かになった。
だぁれも来ないので困ったことは無い。困った時はいつも駆け付けてくれるので、オッさんは何も言い返せないんだ。
「おい、オツ。この状況なんとかしろ。仮にも委員長だろ」
仮ではなく一応、正真正銘の委員長なんだけど…。
このキミさんの言葉に反抗する元気も無いのか、オッさんはムクリと起き上がるとその場に胡座をかいた。
心なしかしょんぼりしているようにも見える。
「何なんだ今年はよ。暇過ぎるな」
オッさんがうーんと唸って頭を抱えた。
その時だった。
─コンコン。
待ちに待った来客を知らせるノックの音。
下村さんが来たときにそうしたように、オッさんはまたどや顔を僕らに向ける。
何て腹立つ顔なんだ。
オッさんは嬉々として机の上に胡座をかきなおした。
ゆっくりスライドする扉に向かってオッさんが「生徒会へようこそ!」と声を掛けた。
この来客がまた嵐を呼び寄せることを僕はまだ知らなかった。
to be next mission...