生徒会へようこそ【MISSION'6'犬のキャロルを発見せよ!】-7
「そうなんです。私、嘘吐いてたんです。…全部桂木さんの言う通り」
暫く泣いて落ち着いてきたのか、下村さんがぽつりぽつりと語り始めた。
「私、好きな人がいるんです。喋ったことも無いし、どこに住んでるかも分からないけど」
早羽さんはまだ下村さんの肩に手を当ててくれている。僕らはうんと頷いて、ちゃんと聞いているよという合図を示す。
「いつも通学中にすれ違う人で、名前も歳もどこに住んでいなのかも分からない。だけど、毎朝見る度雰囲気とか表情が…気になって…」
下村さんが目を伏せたまま、顔を綻ばせた。その人のことを想うだけで幸せになれるのだろうか。
そんな表情だった。
「昨日の朝、いつもすれ違うところでその人がこの紙を配ってたの…」
そう言って下村さんは、手に持っていたビラに目を落とした。
キャロルはその人の家の犬だったのか。てことは、この写真の男の人が下村さんの好きな人かな。
そうだ。
そういえば、連絡先の名前が違うなと思っていたのを忘れていた。そういうことだったのか。
「あの人…すごく困ってた。悲しそうな顔してた…。あの人が困ってると思ったら私も辛くて…。昨日は朝から部活があったんだけど、サボって一日中探してたの。でも一人じゃ見付かる気がしなくて」
「そう。それで今日ウチに来たんだね」
「はい」
下村さんがこくんと頷いた。
「それならどうして嘘なんて吐いたの?正直に言ってれば良かったのに」
「他人の犬を探して欲しいって頼んだら、絶対に理由を聞かれると思ったんです。理由を言わなきゃきっと怪しまれるだろうし、だけど理由を言うには恥ずかしくて…」
下村さんが耳まで赤くして「すみません」と消え入りそうな声で呟いた。
なるほど、全部繋がった。
最初に家まで案内してくれと頼んで渋っていたのは、ビラに書いてある住所の家まで行ったら、表札やなんかですぐに下村さんの家でないことがバレてしまうからか。
「早羽さん、この子、下村先輩に託していいですよね?」
宝さんがすがるように早羽さんを見た。
「もちろん」と力強く頷く早羽さん。
それを見て下村さんは溢れるような笑顔を見せた。今日イチの笑顔だった。
宝さん、早羽さん、僕。というように並んで歩いている。
「下村さん、とても嬉しそうでしたね」
宝さんのホクホクとした気持ちが伝わってくる。
「そうだね」と僕が頷く。
「恋する少女に弱いの、私」
ふふっと早羽さんが笑う。
下村さんは壊れたように「ありがとう」を連呼すると、オレンジ色に染まる町の中にキャロルを抱えて駆けていった。
僕らはその背中が見えなくなるまで見守って、こうやって家路についているという訳だ。
「これを期にあの子と好きな人が近付けばいいけど」
早羽さんが嬉しそうに目を細める。
「それにしても良く分かりましたね」
早羽さんがいなければきっと、何も知らずに終わっていた。むしろ、見つけることも出来なかったかもしれない。
本当に早羽さん様々だ。
「私、ワンちゃん本当に好きなの!いつか飼う日の為に色々な本見てたら無駄な知識だけ付いちゃって。実際照美ちゃんのことだって、気付かなきゃ気付かないで良かったし」
早羽さんが苦笑する。
本当にそうかな?早羽さんが気付かなかったら、僕達はもちろん気付くことはなくて…。
「そんなことないですよ!早羽さん!」
握り拳をぐっと握った宝さんの声で、僕の思考は止まった。
「早羽さんが指摘してくれたから、下村さんは嘘つきにならずに済んだのです。ずっとあのままだったら、きっと最後まで下村さんは笑ってくれませんでした。心に引っ掛かりがあるから…」
僕の考えてたこととおんなじだ。
下村さんが、いつも下を向いて顔を赤くしていたのは、恥ずかしいだけじゃなく後ろめたい気持ちがあったから、胸を張って真っ直ぐ見れなかったんだと思う。
「そうですよ、早羽さん。あの笑顔は早羽さんのおかげだと思いますよ」
だから便乗して僕も、僕の思いを述べた。苦笑いの早羽さんを慰めるためじゃない。
本当にそう思ったんだ。
「…ありがと!」
僕達の話を静かに聞いていた宝さんは、パッと花が咲いたように笑うと両腕を伸ばして僕らの頭をくしゃくしゃと撫でた。
年上のお姉さんにこの歳になって撫でられたのは初めてで、僕は心の中で「サイコー!」と飛び上がった。
会話が途切れた。
せっかく早羽さんとゆっくり話せるチャンスなんだ。
ずっと僕が気になってたあのこと、聞いてもいいかな?
「あの…早羽さんにずっと聞きたいことがあったんですけど」
「ん?なぁに?」
聞いていいのかなぁ。でも僕は自分の探求心を押さえられなかった。
「あの、前に聞いたんです。生徒委員会を作ったのは早羽さんって。それと、早羽さんは渡邊先生に救われたっていうのも聞きました。
その…委員会を作ったのと救われた話って関係あるんですか?」