生徒会へようこそ【MISSION'6'犬のキャロルを発見せよ!】-6
その言葉を聞いた下村さんの顔がどんどん雲っていった。
僕は状況が分からず、早羽さんか下村さん、どちらかが何かしら行動を起こすまで待つことしか出来なかった。
「嘘つきさんには渡せない」
そう早羽さんが続ける。
え、嘘つき?嘘つきって下村さんのこと…だよね?
「早羽さん、嘘つきってどういうことですか?」
眉根を寄せて、宝さんが早羽さんに近付く。当の下村さんは口を真一文字に結んで下を向いている。
早羽さんはふぅと短く息を吐いて
「照美ちゃん、キャロルの飼い主じゃないでしょ?それどころか、犬なんて飼ってないでしょ」
と、根底を覆すようなこと言った。
沈黙が流れる。
下村さんが俯いたままゆっくりと口を開いた。
「どうして…分かったんですか」
声が震えていた。
ということは、早羽さんの言っていることが事実。キャロルは下村さんの犬じゃないってことだ。
「あのね、フライドチキンの骨って餌として犬にあげるのはタブーなんだよ。何でかって言うと、鳥の骨は縦に裂けるから喉が詰まったり刺さったりするの」
「じゃあ、早羽さんはずっと気付いてたんですか?下村さんが嘘吐いてるって…」
早羽さんが下村さんにキャロルの好物を聞いていた。そして、骨だと答えた下村さん。
その時から早羽さんは気付いていたのだろうか。
「ううん。気付いたのはさっき。
好物が骨って言われた時は不思議に思わなかったの。お肉の匂いとか、骨型のおもちゃの代わりとかそういう風に考えてた。だけど…」
「さっき、下村先輩は本気で食べさせようとしていました…」
宝さんが思い返すように目を閉じながらそう呟いた。
「そ。だからびっくりしちゃった。しかも、私がカマかけたら見事に引っ掛かってれちゃったし」
「カマ…かけてたんですか?」
かけられた本人が目を丸くした。下村さんもどこでかけられたか分からないみたいだ。
「かすみちゃん」
突然名前を呼ばれて僕はドキッと心臓が跳ねた。
「はっはい!」
「キャロルを抱っこすれば、かすみちゃんならすぐ気が付くと思うよ」
そう言われて、僕はゆっくりとキャロルを早羽さんから受け取った。
「…あ」
軽い?あ、そうか。
「分かった?」
早羽さんが目を細めて首を傾げた。
「はい。ついさっきのセリフですよね。しっかりした体格っていう…」
「ピーンポーン!」
早羽さんがパチパチと手を叩く。
僕の腕の中で、僕を見上げて尻尾を振るキャロルはとても軽い。
試しに腕を触ってみると、ふわモコの毛の下にある骨は細く、少し乱暴にあつかったら折れてしまいそうだ。
体毛で大きく見えるけど、実際はきっと、小さくて細身の犬種なんだ。
「寿絵瑠にも抱かせろ」と宝さんが言ってきたので、キャロルが傷付かないよう慎重に宝さんに渡した。(頼むから丁寧に抱っこしてくれと思った)
「そう。こういう小型犬はね、少し高いところから飛び降りただけで骨折しちゃったりするの。飛び跳ねるなんて厳禁。飼い主だったら絶対知ってるはず」
「モフッとした見た目では分かりませんでした」
宝さんがキャロルを撫でながらそう言うと、「そうでしょ」と早羽さんが笑った。
「照美ちゃんも、そう思ったのよね?」
早羽さんは先程の厳しい表情とは逆に、今度は優しく微笑んでそっと下村さんの肩に手をかける。
暗い表情だった下村さんがゆっくり顔を上げ、早羽さんと、目が合う。
早羽さんが口角をきゅっと上げて頷くと、ポロポロと下村さんの目から涙が溢れてきた。
「ごっ…ごめんなさい…っ!」
下村さんが手で顔を覆ってその場に崩れた。
夕方になり傾いた太陽は橙に染まり、僕たちの影を長く長く作っていた。